第37話メンヘラ

「申し訳ありませんが、明日から少しお休みを頂きたく存じ上げます。」


「え?」

マイさんが不安な顔をしている。


「待って。なにが不満なの? なおせることなら改善するから。怒らないから、おしえて?」

こんな弱気なマイさん今までみたこともない。


「マイさんが悪いわけでは無いんです。僕の不安を解消しに領都に行きたいなって。」


「いまの稼ぎじゃ満足できない? わかったわ。あなたの食費も松風の維持費も全てわたしが出すわ。」


「いえ。宿代を出して貰えるだけでも僕は満足しています。そこまでして貰う訳にはいかないですよ。」

このままでは究極完全体ヒモ男になってしまう。


「駄目よ! あなたが死ぬ時、手を握ってるって約束したじゃない! わたしを置いてどこかに行くなんて許さないわ!!」


「そう言われてもですね……もう決めた事なので。」


ーーガチャ。


マイさんは部屋のドアの鍵を掛けた。


「この部屋から出たいなら、わたしを倒していきなさい!」

マイさんが立ち塞がった。

まさか自分の寝泊りする部屋でボス戦が始まろうとは。

「あのー、すいません。ちゃんと戻ってきますんで、許して貰えないですか?」


「いいえ。あなたは死ぬまでもうこの部屋から出ることはないわ。どうしても出なきゃ行けない時は、あなたを縛り上げて私の監視のもとに外出することになるわ。」


「そこまでします?」


「言ったでしょ? わたしにとって約束は死より優先されるって。逃げ出したらわたし、死ぬわよ?」

まさか自分を人質にするとは。


「逃げたりしませんよ。領都の教会に行きたいんです。僕の病気が治ったら直ぐ帰って来ますから、信じて下さい。」


「なによ、そうあう事なら早く言ってよね。」

よかった、許して貰えた。

もしかしたらマイさんはメンヘラなのかも知れない。


ーーしかし、その日は単独行動することは出来なかった。

依頼をこなして大衆浴場に行っても、マイさんは脱衣所の前でずっと待っている。


「おい、どうしたんだよあれ。」

マルフォイさんが僕に話し掛けてきた。


「ああ、僕が逃げ出さないよう見張ってるんですよ。」


「お前なにしたんだよ……」


宿に帰ってからも監視は続いた。

松風のブラッシング中も隣で見ている。


「ブルルル(ちょっと、ご主人との大事な時間を邪魔しないでよ。集中できないじゃない!)」

マイさんと松風はにらみ合っている。

魔獣と獣人で通じ合うところでもあるのだろうか。

あ、これは獣人差別的な事を考えてしまった。


「いい? 部屋で大人しくしてるのよ?」


「はい。わかりました。」

マイさんの入浴中はさすがに部屋で待たされた。

南京錠を買って来て外から鍵を掛けられてしまった。

しかし、明日から領都に行くので今日1日の辛抱だ。大したことではない。


翌朝ーー


「じゃあ、領都に行きましょ。」

僕が旅の準備を終え部屋を出ようとすると、マイさんが言った。


「あれ? マイさんも来るんですか?」


「当たり前でしょ? あんたがいないと依頼も受けられないじゃない。せっかくだからついていくわ!」


「はあ、そうですか。」

僕は松風に跨がった。

松風は嫌がったが、マイさんも乗せてくれた。


今日もブラッシング2時間か……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る