第36話不治の病
「はあっ!!」
マイさんが最後の鹿の魔獣を仕留めた。
「お疲れ様でした。」
僕はマイさんのもとにタオルを持って近づき、それを差し出した。
「ありがとう。」
マイさんともだいぶ打ち解ける事が出来た。
最初の頃の塩対応が嘘のようだ。
僕はマイさんが倒した鹿の頭を台車に乗せる。
「ちょっと休んだら帰りましょ。」
「はい!」
全部で丁度三十匹だ。
今日も大量だ。
ギルドに鹿の駆除の特別依頼が出ていて、一匹につき銀貨一枚追加される。
鹿が大量発生して、近くの畑を荒らしていたのだ。
鹿は中型の魔獣なので、報酬は金貨九枚になる。
周りには他の冒険者も沢山いるが、うちほど駆除出来たパーティーはないだろう。
僕達はいつものごとく冒険者ギルドで精算し、報酬を受け取った。
「やあ、二人とも、久しぶり。」
アナさんのパーティーだ。
近頃アナさんを見かける事はあまり無い。どうやらギルドからアナさん宛に特別依頼が出ていて、この街を離れているみたいだ。
「アナさん、お疲れ様です。また遠くまで行ってたんですか?」
アナさんの後ろには、彼のパーティーメンバーのデカ美さんとデカ江さんがいる。目の下にはうっすらと隈が出来ている。
毎日致して寝不足なのだろう。
「うん、ちょっとね。それよりすまないね、病気のこと、話すって言ったきりになってしまって。」
自覚あるなら早く教えろや。
「いえ、アナさん達も忙しいみたいですし、しょうがないですよ。でも、早いうちに知りたいです。」
「本当にすまない。明日の夜なら時間作れるけど、ダイくんの予定はどうかな?」
「えーと、明日ですか。たしか……何もなかったと思います。ええ、大丈夫です。」
「あんたに予定があるわけないでしょ。」
マイさんが突っ込みを入れる。
予定は無いが、男の見栄ってやつだ。ちょっとぐらい忙しいふりしてもバチは当たらない。
「じゃあ、明日の夕方に『無我夢中』で話そう。」
「はい、よろしくお願いします。」
次の日の夜ーー
僕はいつものように仕事を終え、大衆浴場で身を清めてから『無我夢中』に向かった。
「今日は人が多いな。」
店の中は既に人でごった返している。
もしかしたらアナさんも席を確保出来ずにいるのではないか。
そう思いながら店に入ると、直ぐに声をかけられた。
「ダイくん! こっち!」
どうやらアナさんはちゃんと席を確保出来たみたいだ。
出来る男は違うな。
「すみません、結構待ちました?」
「そんなでもないよ。席を予約しておいたから、僕もさっき来たところさ。」
さりげない気遣いがムカつく。
「それで、早速なんですけど僕の病気のこと、教えて貰えます?」
「まぁまぁ、夜は長いんだし。先ずは近況報告でもしようよ。」
アナさんは焦らすタイプのようだ。ネットリ系男子だ。
「そうですね。マイさんとルームシェアしてからは大分生活は楽になりました。」
そう、マイさんが宿代を全て出してくれるので僕は自分の食費と松風の維持費だけで済んでいる。
ちょっとづつではあるが貯金も出来ている。
マイさん、ありがとう!
「それはよかった。結婚式には呼んでくれよ?」
なんだこいつ、小学生か?
今時同棲したくらいで責任取れなんて言うやつなどいない。
僕は子供が出来る以外で責任を取るつもりなどない。
「はは、気が早いですね。」
僕は曖昧に答える。
「それより、アナさんは何処に行ってるんです? 最近余り街に居ませんよね?」
「ああ、ちょっと、魔族領までね。」
まさか、魔族領まで行っていたとは。結構遠くまで行っているんだな。
あれ? でも、確か今は戦争中じゃなかったっけ?
「戦争絡みですか?」
「まあね。だから、これ以上は機密事項なんだ。この話はこれで終わり、ね。」
まさか自分から話をふっておいて、それはないだろう。
白けるわー。
「わかりました。じゃあそろそろ教えてくださいよ。僕の病気のこと。治るんですか?」
「うん、治るよ。領都の教会に行けば簡単に治して貰えるよ。」
僕の病気、治るんだ。考えたら、涙が出て来た。
「ぼぐ、じなないんでずね。いぎられるんでずね。」
「ああ。元々直ぐに病状の出るものでもないが、落ち着いたら治しに行くといいよ。」
アナさんが優しく答える。
「うぐ、うっ、うわあぁぁぁん!」
涙が止まらない。
「でも、不思議だね。その病気は数百年まえに治療法が確立されてから、殆んどかかる人はいなかったはずだよ。キミはいったい何処の誰に移されたんだい?」
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