第35話百合

「はぁ、今日も疲れたな…」






現在残業を終えて帰宅中だ。

帰りに夜飯のコンビニ弁当を二つ買って家に向かう。


ぎーこ、ぎぃーこ。


僕はチャリ通だ。

片道二キロの職場と家を行き来している。

免許は親に取らして貰ったが、車は持っていない。

パチンコで百万勝ったら買おうと思っていたのだが、気付けば二十九になっていた。

おそらく累計マイナス五百万は行っているだろう。

良い車が買えてしまう。

仕事を始めたばかりの頃は先輩が送ってくれた。

お礼に僕は先輩に運転のアドバイスをしてあげていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「あ、少し右に寄りすぎですね。左に寄って下さい。」



「ちょっとスピード出しすぎですよ。ここの制限速度は四十キロです。」



「うーん。今、ブレーキ踏むの二秒遅かったです。」



「帰りにTATUYA寄って貰って良いですか? DVD返したいので。」



僕のアドバイスは的確だったと思う。

しかし、それがいけなかったのか、先輩は車で送ってくれなくなった。

最初から上手に運転出来る人などいないのだ。

僕だって免許を取ってから一度も運転していない。

今運転したら上手く出来るかもわからない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

家の玄関の鍵を開ける。

「ただいまー。」


「おかえり……」


「今日も大人しくしてたか?」


「うん……」

僕の家には同居人がいる。

しかも女の子だ。

渡邉に貰った。


「ところで百合、今日は家に誰もこなかった?」


「うん……」


「いつも言ってるけど、誰か来ても絶対に出ちゃ駄目だよ?」


「うん……」


この子は百合ゆり百ハ歳だ。


どう見ても子供だって? それじゃ僕が犯罪者みたいじゃないか。


ーー時は先週に遡る。


「くそ。設定は良いはずなんだけどな。こんどまた渡邉に生活費貰わないと。」

休日にスロットで十万負けて帰ってきた夜の事だ。


「ただいまー。」


「おかえり……」

あれ? 誰かいる。

部屋の中を見ると、そこには渡邉から預かった子供が正座していた。


「や、やあ。目が覚めたんだ……」


「うん……」

この子を預かってから十日が経ったが、今日の朝までずっと眠ったままだったのだ。


「きみ、名前は何て言うの?」


「さあ……なんでもいい……」


「そうなんだ……年はいくつ?」


「さあ……」


「きみのお家はどこかな? お父さんかお母さんの名前わかる?」


「おうちはここ。お父さんはあなた……」

なんと僕は一児の父になったようだ。


「そっかぁ……」

僕は渡邉に電話した。しかし、電波が通じないところにいるそうだ。


困った。


「とりあえず、名前だけでも教えてくれないかな?」


「なんでもいい……」

僕に決めろって事か?


「じゃあ、とりあえず百合って呼ぶね?」


「うん……」


そう。なにを隠そう僕は百合レズが好きだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

男なら一度は考えた事はないか。

AVを視ている時、どの場面で抜こうかなと。

AVは四時間~二時間の物が一般的だ。

最初のインタビュー、前戯、挿入。

それぞれ自分の抜きどころというのがあるはずだ。


しかし、僕がまだモラトリアム人間だった頃ーー


いつものようにオキニのAVをみていた。

僕の好きなクライマックスは、丁度女優の顔にぶっかけるシーンだ。

いわゆる顔射というやつだ。

僕は何度も練習して、顔射のタイミングを合わせていった。

しかし、そのタイミングが0コンマ一秒も無くなった時に、ふと思ってしまったのだ。


ーー僕は、男優のタイミングとシンクロしようとしている。


気付いてしまってはもう遅い。

僕は男優のタイミングとずらして発射するようになった。

しかし、どうしても上手くいかない。

出るタイミングで男優のアップ画面に切り替わってしまったり、画面全体がモザイクで何も見えなかったり、僕はフラストレーションを溜めていった。


仕方がないので、超越者の渡邉に相談した。

僕は渡邉に笑われた。

ぶん殴りたい。

その気持ちをぐっとこらえて答えを聞いた。


「そんなの簡単さ。男優のいない物をみればいい。」

どや顔がムカつく。

しかし、その答えはとてもシンプルで、しかし的を得ていた。

僕はそれからオナニー物とレズ物を好んでみるようになった。

特にレズ物は絡みがある分興奮するし、二人のタイミングに合わせると三人でヤっている気分になれる。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


という訳で、この子には百合と名付けた。

年齢については何歳かわからないそうなので、犯罪にならないよう見た目年齢に百を足しておいた。

念には念をってやつだ。

こうして僕たちの生活は始まった。

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