第24話百万円の女の子

「おま、それ犯罪じゃっ!?」

渡邉のキャリーケースの中には、小学校低学年くらいの女の子が丸まって入っていた。


「大丈夫だよ。この子に国籍はないから。」


ーー余計犯罪の匂いがする。


「そう言う問題じゃないでしょ!!」


渡邉は女の子をキャリーケースから取り出すと、僕の隣に寝かせた。


黒髪で病的に肌が白い。

顔立ちもはっきりしていて、まちを歩いていたらすぐに子役としてスカウトされそうだ。


ーー美女に育つこと間違いない。


「ねえ、この子死んでない?」


女の子は目を閉じている。真夏にキャリーケースに入っていたのだ。僕たちが合流してから大分時間が経っている。


ーー熱中症になっていてもおかしくない。


「大丈夫だよ。この子は普通の人間より、とても丈夫だからね。」

女の子から小さな寝息が漏れている。


「でも、面倒を見るなんて無理だよ。日中は仕事もあるんだし。」


しかも最近は残業だらけだ。


「問題ないよ。この子は朝だけご飯をあげてくれれば生きていける。それ以外は、ただのぬいぐるみと変わらないさ。」


「それを言うならぬいぐるみじゃなくて、人形でしょ!」


ーーそう、僕は昔フィギュア集めが趣味だった。


ゲーセンでとったポケットなモンスターの歴代ヒロイン達のフィギュアを枕元に置いて一緒に寝ていたのだ。


たまたま僕を起こしに来た母が、僕の嫁たちを見て「かわいいぬいぐるみね。」と言った。


ーー僕は激怒した。


ぬいぐるみと人形、いわゆるフィギュアはまったくの別ものである。


それが原因で僕は反抗期に突入した。


「どっちにせよこの子は、普通の子とは違うんだ。ほとんど手はかからないよ。」


「いや、でもさぁ……」


誰かに見られたら確実に通報される。


警察官の父に迷惑はかけたくない。


「当面のこの子の生活費なんだけど、これで足りる?」

渡邉は人差し指を立てた。


一万か。

そんなのすぐになくなってしまう。


僕は給料の大半をパチンコに使っている。

貧乏なのだ。

しかし僕のような傾奇者に一万円を渡すとは、なかなかやりおるな。


「百万円じゃ不足なのか?」

そう言うと渡邉は札束をちゃぶ台の上に置いた。

一万円札の束だ。紙が巻かれてとめられている。


「ひゃ、百万円!?」





「それじゃ、一度アメリカの本社に戻るよ。近いうちにまた来るから、何かあったら連絡して。」


「わかりやした! 旦那! お気をつけて!!」

僕は渡邉に胡麻をすりながら彼を見送った。


「よし! 今週末は全ツッパだ!!」

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