第13話 執事からの依頼
休日の朝、俺は日課のジョギングをしていた。
「すみません……猫八様でよろしいですかな?」
「あっはい、そうですけど……一花さんと一緒にいる執事さんですよね?」
普段の俺なら絶対に他人に声をかけられても一言二言挨拶して終わりだが、俺が今声をかけられたのは、たまに一花さんと一緒にいて送り迎えするご高齢の執事だ。
執事の体からは厳格さというか、ただものではない雰囲気がにじみ出ている。
「そうです。私は一花様の執事の田中です」
「はぁ…………」
俺は、いろんな疑問が頭から出てきて、思考がまとまらず曖昧な返事をしてしまう。
「戸惑われるのも、無理はありません、私から声をかけたのはあなたについてお伺いしたいことがあるからです」
「それはどんな?」
「新学期から始まって以来、体に異変はありましたか?」
「いえ、とくには」
「そうですか……例えば、隣のいる女性の心が読めるとか、そういうことはありましたか?」
「…………っどうしてそれを」
俺は警戒心を強める。
「あぁ、いえいえ、別にこのことを口外しようとはおもいません。もとはと言えば、私のせいでもありますから」
「どういうことですか?」
「私も前まで実は超能力者だったのですが、どうにもこの歳です、力は日に日に衰えていくばかり。そこで私は一花様が好いているあなたにこの力を譲渡したのです」
「…………どうしてそんなことを?」
「簡単なことです、あなたには一花様を好きになって……とまではいかなくとも、一花様の理解者であってほしいのですよ…………無論、関係が悪化すればすぐに力を返してもらう予定でしたが……」
「そうか……まぁ最初は戸惑ったけどさ……」
「あの人は私以外に本音を見せないのです。だからせめて想い人にくらいは本音で接してほしいと……おせっかいだということは重々わかっております」
「……それが何で、こうしていまになって姿を現したんです?」
「毎日、楽しそうにしているお嬢様を見ているのは大変私も嬉しい……ですが、いっこうにあなたと一花様の関係は進展しない。そこで私はしびれをきらして、あるお願いをしに来たのです」
「お願い?」
「彼女は……高校を卒業したら、海外に留学してしまわれるのですよ。せめてそれまでにあなたと思い出を作ってほしいのです」
「…………なんだって」
俺は驚く。
※ ※ ※
一方その頃、とうの一花はというと、ぬいぐるみを抱きしめながら「猫八さまぁ……」とベッドの上で妄想にふけっていたのであった。
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