第20話 海外出張(2)急襲

 島中が犯罪者やその関係者だというこの島には、色んな人種がいる。共通点は、犯罪者か、その関係者か、という点だ。

 中心部へ足を踏み入れたモトとセレも、周囲からそう見られているという事だ。

 まあ、間違いではない。殺人という禁忌は何度も犯しているのだから。

 ここで殺す相手は、馬場マリカという女だ。この女は、いわゆる魔性の女という存在だ。小学生の頃は男友達をその気にさせてお菓子を万引きさせる程度だったが、それがだんだんエスカレートしていった。その結果、20代半ばの今は、複数の男に横領させてでも貢がせ、邪魔な人間を排除させ、あるいは自殺させた。

 弁護士も検察官もその術中にはまり、マリカは逮捕を逃れてこの島に逃げ込んだのだった。

 マリカの家は、そこそこ広く、こぎれいだ。この島のベスト10に入る優良物件ではないだろうか。

「広いなあ。庭でテニスできそう」

 セレが言うと、モトは面白くないような顔で、

「自分で稼いでない金で、いい気なもんだぜ」

と言った。

 マリカの情報は公安からのもので、2人はマリカの家から歩いて2分ほどの所の安い食堂に入り、食べながら観察していた。

 テーブルの9割が埋まっているほどの人気店だけあり、味もいいし、値段も安い。

 ただボリュームが多く、セレには少々持て余し気味だった。

「さて、どうしようかな」

 今回、今の所は2人とも手ぶらだ。武器は現地調達となっていた。

「適当に外にも出てくるみたいだしな」

「そこを狙うか。でも、ボディーガードがいるんじゃないのか?」

「狙撃の方がやり易いか。

 家の中に侵入できないか」

 時間制限もある。まだモトとセレが乗っている事になっている豪華客船は、この先3つの港を経由し、ゴールであるシンガポールへ到着する。シンガポールへ着く前に、船にこっそりと戻らないといけないのだ。

「もう少し観察しないと、何とも言えんか」

 小声で相談してそう決める。

 そして、まずは近くから見てみようかと店を出た。

 ブラブラと通りを歩く。

 それは突然だった。

 前から歩いて来る2人組の男が、セレとモトに目を合わせながらナイフを抜く。

 後ろを見れば、やはり2人組の男がナイフを抜いていた。

「知り合いはいないんだがな」

 モトが苦笑を浮かべる。

「大人しく付いて来てもらおうか。お前らが日本から来たのはわかってる」

「残念だったな」

 言いながら4人はモトとセレを前後から挟んだ。

 モトとセレは視界の隅で頷き合い、同時に動いた。

 廻し蹴りで前後の2人の内の片方の意識をまずは刈り取る。そして残るもう片方に対峙した。

「この!」

 突き出されるナイフを避け、肘の外側に払って手首をぐるりと回転させるようにすると、相手の手首を握り込める。そうして手首を強く折り曲げると、

「痛い!痛い痛い痛い!」

と言いながら簡単にナイフを手放す。

 モトはそこから、相手のみぞおちを狙って殴り掛かる。だが、相手もそれを肘でブロックし、パンチを放って来る。

 それをやはりブロックし、蹴りも織り交ぜて攻撃した。

 何度かの攻防の後、モトの拳が相手の顎に入り、即、続けて膝をみぞおちに叩き込む。

 相手は体を二つ折りにしてその場に崩れ落ちた。

 モトは背後のセレを見た。

 セレもどうにか、相手の腕を背中に捻り上げ、肘を外したところだった。

「何だ、お前ら」

 モトが脂汗をかいて苦しむ男の顎をつま先で突いて訊く。

「マ、マリカを、捕まえる気か」

 モトとセレは、チラリと目を見交わした。

「ハッ!隠したって無駄だ。お前らが来る事は、わかってたんだぜ。ラビットにかかれば、警察だって丸裸だ」

 痛そうにしながらも、笑う。

(ラビット?ハッカーか?)

(公安から漏れたのか?)

 ならばどうしたものかと考えていると、殺気が飛んで来た。

 男の体を盾にして、素早く殺気の飛んで来た方向を見た。

 拳銃を構える男が2人いた。

 と、モトが目を見開いた。

「及川?」

 男が怪訝な顔をしてモトをじっと見、セレもその及川と呼ばれた男とモトを見た。

 モトは呆然としていたが、もう1人が発砲し、銃弾が腕をかすめた事で我に返った。

「行け!」

 モトはセレを脇の路地に押しやり、セレは取り敢えず離脱する事になった。

 背後で数発発砲音がしたが、周囲の人間はなれているのか大した騒ぎにもならず、セレは離脱に成功した。


 

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