第3話 普通でない人の普通の生活(2)せんせい

 ターゲットは、クリーンなイメージの代議士だった。だが裏では、アナウンサーや女優、未成年者を部屋に連れ込んで関係を持ってはそれを撮影し、それを盾にして屈辱的な要求を迫ったりしていた。

 そのためにドラッグを使用しているのだが、それが新しい組成の物で、まだ違法薬物に指定されていないらしい。

 ドラッグで捕まったタレントの告白から発覚したものの立件が難しいだけでなく、立件できてしまうと政治的に悪影響があるとの事で、指示が降りて来たのだった。

「元教育者が聞いて呆れる」

 モトは面白くなさそうに言った。

「先生と呼ばれる人が聖職者だなんて、今時誰も思わないよ」

 セレはあっさりとそう言う。

「そう。だからオレは学校なんてところにも行かないし、教師なんてものも嫌いだ。

 セレも学校なんてやめればいいのに。勉強なんて家でもできるぜ」

 リクがそうそそのかすのを、薬師が眉をひそめて止める。

「セレを引きこもりの仲間にしようとするんじゃない。

 セレ、高校にはちゃんと通いなさい。その年ではそれが一番目立たないんだからな」

「はい」

 セレは返事をしたが、普通の理由ではなく仕事の為と本音を言うのが薬師だな、と半ば感心していた。

「話がそれたな。

 そういうわけだ。この土井を消せ」

「へーい」

 リクが返事をし、リク、モト、セレで相談を始めた。


 土井は会合が終わった後、爽やかな笑顔で派閥の先輩達を送り出し、秘書の車に乗ると途端に顔を歪めた。

「ああ、つまらないな!どうでもいい事をグダグダと!あんな顔ぶれを眺めていてばかりじゃ、気が滅入るな」

 秘書は車を出しながら、ミラー越しにチラリと土井を見て、言っておく。

「この辺りは記者がウロウロしていますからね。やめて下さいよ」

「わかってるよ」

 土井はそう答えて、シートに背中を預けた。

 そのまま車はマンションに向かい、土井は車を降りる。

「明日は朝の5時にお迎えにあがります」

「わかった」

 土井は片手を面倒臭そうに振って玄関に入って行き、秘書は車をスタートさせた。


 マンションは、芸能人も入居している高いもので、セキュリティはしっかりしている。と、思われている。

 しかし、誰かと一緒に入り込む事だってできるし、大抵は機械に頼って守られているものだ。その機械を騙せばどうにかなる。

 セレとモトは、掌紋認証をリクが誤魔化して開けた扉を堂々と通り、侵入した。

 勿論、一切の監視カメラ映像はリクが消去している。

 そして土井の住む辺りに潜んで土井を待っていた。

『来たよ』

 イヤホンからリクの声がして、しばらくして土井が現れた。

 プライバシーを保護したような造りのこのマンションは、ほかの入居者と極力顔を合わせずに済むようになっていて、玄関が仕切られたようになった作りになっている。

 煩わしさはないだろうが、防犯と言う点ではお勧めしない。

 ただでさえ人目のない夜中に近い時間だ。土井が鍵を開けてドアを開いた瞬間に、苦も無くモトが背後に忍び寄り、頸動脈を押さえて失神させた。

 ぐったりとした土井をモトが抱えて部屋へ入れ、セレが素早くドアを閉める。

 そのまま奥の寝室に連れ込み、ベッドに放り込む。

 そして、薬品を溶かした液体を土井の口に入れてセレが鼻と口を塞ぎ、モトが目を覚まして暴れようとする土井を抑え込む。

 やがて土井はそれを嚥下し、目を見開いて痙攣したかと思えば、息絶えた。

 違法薬物で、強くて即効性のある精力剤として使用されているものだ。セックスドラッグと言った方が通りがいいか。

 その薬剤のアルミシートをサイドテーブルに放り出し、その辺にあったグラスに適当にウイスキーを入れてテーブルに乗せる。

 それからセレとモトで、土井の衣服を脱がしにかかった。

「初めて脱がすのがおっさんって」

 セレが泣きそうな顔をすると、モトは、

「何回目だって嫌だ」

と吐きそうな顔をした。

 するとイヤホンからリクの声がした。

『そろそろいい?』

「ああ」

『じゃあ、メールで呼ぶよ。

 この子にしよう。ええっと、ドアは開いているから入って来てくれればいいっと』

 それでモトとセレは、自分達の痕跡が残っていない事を確認し、部屋を出た。



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