『マッチ。マッチはいりませんか』
「あー、やっぱり」
ハチの後を追うと、行き先はやっぱり駅向こうの公園で、そこにはマッチ売りの少女がいた。
バスから降りた乗客に話しかけるその姿は、昨日、一昨日と全く変わらない。
『どうしよう。誰もマッチを買ってくれない』
項垂れている少女に、ハチが走り寄る。
『わんちゃん!』
項垂れた少女の視界にハチが入ると、少女は明るい声を上げ、しゃがんでハチの頭を撫でる。ハチは頭を撫でられ尻尾を振っている。
「こんにちは」
このループする状況に半ば諦めた俺は、自分から声をかけることにした。
『まあ! 今日も来てくれたのね』
少女はハチの頭を撫でるのを止めると、立ち上がって言った。手を組み大袈裟に喜ぶ姿は、やっぱり芝居がかっている。いや、実際演じているのかもしれない。
「えっと……今日は何がいるのかな?」
一昨日は花、昨日は食べ物。今日も違う物を要求されるはずだ。スマホと財布は持っている。駅前まで戻ればコンビニもあるから、必要ならすぐに買って来れる。
『えっ? マッチを買ってくれるの?』
少女は手を組んだまま、驚いたように声を上げた。
「あ、うん」
そういえば、一昨日、マッチを買おうとしたら、まだだと怒られた。今日がマッチを買う日らしい。とりあえず財布から小銭を出し、渡そうとすると
『ありがとう、とってもうれしいわ。でも……』
少女は悲しげに顔をうつむけた。
『やっぱりダメ。マッチは売れないわ』
「えっ?」
『そのお金は、あなたが一生けん命働いてもらったお金』
いや、親からもらった小遣いだけど……
『マッチより、おいしい物を買って帰ってあげて』
少女は儚げな笑顔を残し、薄くなって消えた。
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