第75話 知らない人からものをもらってはいけません
温泉に
もう四年近く、森の中に住んでいる。会うのは虫と獣、それからゴーレムと火炎龍くらい。他の人と話すことなどない。
この温泉にも誰かがいることなどなかった。だから、彼女達の姿を見てうれしいとか怖いとかの前に変な
初めて人に会ったとき、どうするんだっただろうか。
「こ、こんにちは」
「ふむ、よい子じゃな。
何か歳よりくさいな、この人。
見た目は、若い女性なのに。ギャップが脳みそを混乱させる。いや、そもそも人間はこういうしゃべり方をするのだろうか。よく考えると、ガリバーは父と母意外、二三人にしか会ったことがなかった。
もしみんなこんなしゃべり方だったら嫌だな、とガリバーは人間社会に行くことに不安を覚えた。
「ほれ、そんなところに立っているでない。温泉に浸かりに来たのだろう。遠慮せずに入るがよい、ガリバー・トラベル・ジャクソン」
「え、でも、その、僕、男だよ」
「ぬひひ、恥ずかしいのか?
「べ、別に恥ずかしくなんて」
「照れずともよい。男はいくつになっても
「そんなに子供じゃないやい!」
ガリバーは、実際恥ずかしい思いはありつつも、服を脱いで温泉へと足を向けた。
「これ、汚い身体で入るんじゃない。まずは身体を拭かぬか。温泉に入るときのマナーじゃぞ」
「あ、ごめん」
「まったく。世間知らずじゃの」
む、言い返したいが、四年間も森にいたので何も言えない。ガリバーは、女の言う通りにして身体を拭いてから、温泉に入った。
女は二人。裸だというのに恥ずかしがる様子もない。ガリバーの
「あなた、名前は?」
「名前などはどうでもいいことじゃ、ガリバー坊や。大事なのは今を楽しむこと」
「今を?」
「この温泉。それから、わしとの出会いじゃ」
「出会いと言われても」
恥じらいのない女に会ってもただただ困惑するだけなのだが。いいことと言ったら、おっぱいが見えるくらいだ。
「別におっぱいが見えるだけじゃないぞ」
何か、心読まれた。
「驚くことはない。わしは魔女じゃからな。おぬしの考えていることなどお見通しじゃ」
「いや、僕は別に、そんなおっぱいなんて」
「ゴーレムに渡す鉱石を探しているのじゃろ」
「!?」
ガリバーは、素直に驚いた。魔女というものがどんなものかわからないが、本当に心を読まれている。だって、今初めて会ったのにわかるはずないことだもの。
「うん。実は、先生に内緒で、先生が喜びそうな鉱石を探しているんだ。もうしばらくしたら僕はこの森から出ていくんだよ。だから、それまでにお礼に渡そうと思って」
「ぬひひ。それはいい心がけじゃな」
「でしょ。先生って結界の中からあんまり出ないから、外のきれいな鉱石を持って帰ったら喜ぶんじゃないかと思って探しているんだけど、なかなかみつからなくて」
「そうか。それは残念じゃの」
本当にそう思っているのかわからない口調で、魔女は腕を組んでみせる。そして、また、ぬひひと変な笑い方をしてから、どこからともなく掌サイズの鉱石を取り出した。
「それは?」
「
「へぇ。きれいだね」
「じゃろ」
「でも、小さくない?」
「なっ! これだから無知なガキは。太陽鉱石はこのサイズでみつかることないんじゃぞ!」
「ふーん」
「まったく。いったいいくらで姉様に買わされたと思って」
「え?」
「いや、何でもない」
ちょっと途中何を言っているかわからなかったけれど、太陽鉱石というのは確かにきれいだ。ガリバーは、その無骨な形の石の中で輝く太陽に目を向けつつ、思わず目を
「これ、どこで採れるの? 僕も探してみる」
「その必要はない。これをやろう」
「え!? いいの?」
「あぁ」
「でも、貴重なものなんでしょ?」
「なーに。今このときの出会いを大切にしたいだけじゃよ。それに
「ありがとう!」
ガリバーは思わず飛び上がった。
「お礼に何かしてあげるよ。果物を取ってこようか? お花を
「うーむ、そうじゃの。あと五年後だったら、その身体をちょっと味わわせてもらいたかったのじゃが、子供はちょっとのぉ」
「食べるの?」
「うむ。ある意味の。まぁ、安心せい。わしは子供には興味がない。そうじゃな、今は何も思いつかんから、もしも、次に会えたら、わしの頼みを聞いてくれるか?」
「うん! わかった!」
「ぬひひ、
ガリバーは魔女から、太陽鉱石を受け取った。鉱石は熱をもっていた。中の太陽の熱が漏れ出でているようで、持つのが少しだけ怖かった。
「先生とやらに渡してやるがよい」
「うん!」
「おっと、一つだけ約束じゃ。その鉱石、わしにもらったと言ってはならんぞ」
「え? 何で?」
「おぬしが探したと言われた方がうれしいじゃろ」
「そうかもしれないけど、嘘をつくのはな」
「気にすることはない。これはいい嘘じゃ」
「うーん。わかったよ」
「よし、いい子じゃ。では、行くがよい」
「うん!」
急いで温泉から出ると、ガリバーは服を来て、斜面を駆け下りた。途中でふり返って、魔女に手を振るとにこやかに振り返してくれた。
いい人だった。外は怖いところだと先生は言っていたけれども少し怖がり過ぎなのではないかと、ガリバーは思った。ただ、一つだけ気になることがあった。
「あの魔女さん、どうして僕の名前知っていたんだろう」
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