第73話 子供の成長は早いものです。ぼーっとしていると見逃しますよ
「ずいぶん速くなったな」
ネジは、ガリバーの剣撃をさばきながら、ずいぶんと
自分でも驚くような穏やかさであったが、一方で、その声にガリバーは
剣が
無数の金属音が鳴り、森の中を反響する。不似合いな音だ。命の宿らない無味な音。こんな音を
「だが、いささか単調だな」
「げっ!」
ネジがすっと足を引く。すると、ガリバーは剣を
「もう! また負けた!」
「よくはなっている。落ち込むな」
「でもー」
「速いだけではだめだ。いくら速かろうが単調な攻撃は怖くない。もっと工夫をした方がいい」
「はぁ、先生には勝てる気がしないよ」
そもそも勝とうとする方が間違っている。人間に負けることなど天地がひっくりかえってもありはしないのだから。しかし、それではガリバーのモチベーションが下がってしまうだろうか。とすると、一度くらい負けてやった方がいいかもしれない。
そんなやけに人間くさいことを考えつつ、ネジは、地面で
四年が過ぎていた。
ネジが、ガリバーと出会ってから四年。少し背が伸びただろうか。重くて地面を引き
相変わらずひ弱な人間であることは変わらないが、人間の中ではそこそこ強くなったのではなかろうか。少なくとも、いつも襲ってくる冒険者くらいには強い。ゴーレムに喧嘩を売って来なければ穏便に生きていけるだろう。
あと、一年で学べることとすると、魔法だろうか。
「そういえばガリバーは魔法を使わないな。俺には効かないが、
「魔法は、ねぇ」
「ん? サクヤに習っているのだろう」
「サクヤ様から教えてもらっているんだけど、感覚的で、ぜんぜんわかんないんだよね」
「そうか」
まぁ、期待はしていなかったが。
「でも、強化魔法は使えるようになったよ」
「ほう、そうか。じゃ、使えばいい」
「……使っていたんだけど」
「そうか」
やはり魔法というものを理解できないネジである。
ネジのそっけない返事には慣れているようで、ガリバーはひょいと立ち上がった。
「もう一回勝負するか?」
「うーうん。今日はやめとく。食糧の調達もしなくちゃいけないしね」
「そうか」
「それに身体も洗いたいし。いい温泉をみつけたんだ」
「温泉? サクヤのところか?」
「いや、溶岩じゃん。燃えちゃうよ」
ガリバーはぶるりと震えてみせた。どうやら溶岩に落ちたときの記憶がまだ残っているらしい。
「普通にお湯だよ。少し遠いんだけど。ほら、サクヤ様がいつもいる山じゃなくて、隣の
「あちらの方か。結界の外だな。また罠で
「罠にかからないで出られるようになったんだ」
「それならいいが。あまりよくないな。何かあってもわからない」
「大丈夫だよ。危ない獣もいないし」
「うむ」
「もう、先生は心配性だな」
「俺が?」
ゴーレムのくせに大雑把だと言われることはよくあるが、心配性と言われたのは初めてであった。人間と暮らしている内に、人間に感化されてしまったのだろうか。これでは、吸血鬼を笑えない。
「俺の欠片は持っているか?」
「うん」
「死にそうになったら、その石を砕くんだぞ」
「わかっているよ、先生」
そう言って、ガリバーはくるりと
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