第71話 看病は焦らず根気よくですよ
人間とはこんな
ネジは、薬草で全身を
「元に戻るのか、これ?」
溶岩の中に頭から落ちた。
そんな状況にいったいどうやったら
あんなにあっけなく死が舞い込むとは。
今まだ生きているのは運が良かったとしか言いようがない。というより、ひとえに火炎龍サクヤのおかげである。
あたしの血、使う?
龍の血といえば猛毒である。一方で、魔力のかたまりでもあり、万能の薬でもある。つまるところ効くかどうかは運次第というところ。
あのまま放っておいても死ぬだけだろうから、ネジは、サクヤの血をガリバーに投与した。いや、しようとしたけれど、人間の子供に血は強すぎるということで、彼女の汗を投与した。
ガリバーは、皮膚が焼ける痛みなのか、それとも龍の汗を呑んだせいなのかわからないが、
これを生きている状態と呼べばだが。
薬草に治療の効果はない。単なる痛み止めである。治療は龍の力。人間には過ぎた力であるそれは、ガリバーの身体をむりやり治しては壊していく。
死にはしないが、生きてもいない。
生死の境をあと何日
運任せというのは好きではない。ただ、今はそれしかないと、ネジは黙々と薬草を取り換えた。
「やっほー。ゴーレムくんいる?」
この場にそぐわない陽気な声でやってきたのは、火炎龍である。だが、サクヤではない。一回りほど小さい人間の少女の見た目をした彼女は、
「ホオリか」
「おっす。ママのお遣いで来たよー」
やってきたのは、サクヤの娘のホオリであった。
一方で、おっとりとしていて性格はあまりサクヤに似ていない。ただ、欲望に忠実で、その点ではサクヤよりも龍らしい。
「それで、何をすればいいの? そこの人間くんを食べればいいの?」
「食べるな」
「え? じゃ、私何しに来たの?」
それはネジの方が聞きたいところなのだが。
「サクヤから何も聞いていないのか?」
「うーん。何かね。人間くんを食べてこいって言われた」
「おい」
「あ、違ったかも。えっと、人間くんの魔力を食べてこいって。ママの魔力と混ざっちゃったんでしょ。よく生きているね。人間なのに」
なるほど。ガリバーは今、龍の汗により人には余る魔力を取り込んで苦しんでいる。だから、その余分な魔力を吸い出してやれば治る可能性はある。
「頼む」
「おっけー。ねぇ、ついでに右足だけ
「だめだ」
「だめかー。仕方ない。やるか」
ホオリは、よいしょとガリバーの上に乗ると、彼女の首筋をぺろりと舐め、そしてがぶりと噛みついた。咄嗟に吸血鬼をイメージしたが、彼はもう少しエレガントに噛みつく。彼女は、なんというか、野蛮だ。いや、どっちでもいいんだけど。
「ぷはっ。ママの魔力っておいしくないのよね」
「そうなのか。わからんが」
「ちなみに噛みつく必要はなかったけど気分で噛みついた。血がおいしかった」
「何やってんだ」
本当に龍という生き物は自分勝手だ。まぁ、能力は確かだろうから、ちゃんと仕事をするだろうが。
「で? うまくいったのか?」
「ばっちし」
「ガリバーは元に戻るか?」
「さぁ。わかんないよ、そんなこと。とりあえずママの魔力っぽいのを食べたけど、全部食べちゃうと死んじゃいそうだったから、少し残したし」
「そうか。それにしてもホオリは器用だな」
「えへん。魔力操作に関してはママよりうまいからね。というかママは大雑把だから」
魔力について、ネジにはわからない。ネジも魔力で動いているが、その操作は吸収するか、身体を変形するかのどちらかだ。そんな複雑な魔力操作はできない。
「何か、人間を回復させる魔法を知っているか? 薬草でもいいが」
「うーん。わからないな。人間って殺すか食べるかだから。回復させたことなんてないし」
「そうか」
そりゃそうだ。同じことを問われたら同じ回答をネジもする。人間なんて簡単に死んでしまう生き物を、どうにか生かそうとしているのだから、おかしな話だと自分でも思う。
「ねぇ、もういい? やることやったから帰りたいんだけど」
「あぁ、感謝する。サクヤにも礼を言っておいてくれ」
「ほーい。覚えていたらね。じゃ、またねー」
さっさと去っていくホオリの後ろ姿をとくに見送ることなく、ネジはガリバーを見下ろしていた。先ほどよりも少しだけ呼吸が楽そうな気がする。
「まったく世話をかけさせる」
時の流れがやけにゆっくりしている。五年などあっという間だと思っていたのに、彼が起きないこの時間が、ネジには、百年くらいに感じたのだった。
どのくらい時間が経っただろうか。彼が眠って、何度目かの夜が明けて、いつものように何事もないように小鳥が
「せん、せい」
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