第58話 人魚の呪い攻防戦~歌とダンスのクライマックスなのです③~

 踊る。


 踊る踊る。


 踊ると呪いにあらがえる。この場に流れる音楽へ貢献こうけんすることに対して恩賞おんしょうを与えるように、俺を自由にした。


 開放感が半端はんぱない。


 全裸だからか。


 いや、違う。


 命をかけているからだ。今、俺は脱出用の縄をかけていない。縄をかけてでは、うまく踊れない。だから、今回失敗したら、俺達は死ぬかもしれない。


 全力のタップダンス。


 必死の挑戦。


 今まで経験したことのない高揚感が、俺の脳みそを刺激する。心臓を激しく叩く。生きることを渇望かつぼうする。


 いつの間にか人魚の数が十匹近くになっている。呪いの力は最大限。それは、同時にこちらの抵抗が効いていることを表す。


 俺は踊った。


 踊って踊って踊り狂った。


 隣のカラスとのシンクロはもうできているのかわからない。ただ渾身こんしんの力で、俺達は踊った。


 今までにこれだけ必死になったことがあっただろうか。なぁなぁで生きていた。目の前にあることをこなして、流されるままに流されて、ほしいものは手に入らないと最初から諦めて、挑戦もせずに、ただ夢想して、運に任せて、何の努力もせずに、落胆していた。


 何もうまくいかないと悲嘆ひたんにくれて。


 だけど、そんなの当たり前だ。何もしなかったんだから、何も起きやしない。


 失敗も成功も。


 挑戦して初めて生まれる結果なんだ。


 そんな簡単なことを、俺は知らなかった。


 はたから見たら、滑稽こっけいに思えるかもしれない。けれども、この挑戦によって、どんな結果が出たとしても、俺はきっと後悔しない。


 だから、踊った。


 どのくらい踊っていたのだろうか。


 歌とタップの協奏が心地よく、時間の流れがわからなくなるくらいに俺達は音楽の中に身を投じていた。


 終わりは唐突にやってきた。


 歌が終わった。

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