第51話 人魚の呪い攻防戦~閃きに気づいてあげましょう~

「歌を練習しよう」


「いや、それはあきらめよう」



 カラスの提案を俺は一息で却下した。



「何でだ?」


「見込みがないから」



 何度か聞いたが、カラスの音感は壊滅的だ。あの歌をなんとかするなんて、魔王を倒すくらいに難しい。どうでもいいが、人魚、魔王がどうのこうのって言ってたな。魔王とかいるの、ほんとに? いや、どうでもいいけどさ。



「それに、人魚が言っていただろ。何か、返し歌があるって。やみくもに歌ったってうまくいかないだろ」


「そんなことはない。俺達のチューニングされていない歌でも確実に呪いにかかるまでの時間が延びた。察するに、あの歌は未完成なんだ。そこをおぎなえれば呪いは返せる。別に返し歌である必要はないはずだ」



 確かに、俺達の歌でも呪いにかかるまでの時間が延びたのは事実だ。カラスの仮説はそこまでおかしな話ではない。



「とはいっても返し歌でないならば、相当うまく歌わないといけないだろ。俺達には無理だ。努力でなんとかなるレベルじゃない」


「大丈夫だ。歌には自信がある」


「うん、その自信は全部捨ててくれ」


「何で?」


「そろそろ気づけよ! へたくそなの! 歌が! 修復できないくらいに! 人魚にまで苦情言われてんだよ! もうだめだよ!」


「う、まぁ、確かにちょっとへたなのかなと最近思いはじめたが、努力すれば」


「努力でなんとかならないことだってあるよ!」


「俺は諦めない!」


「百年かかるよ!」


「ならば百年生きれる秘薬を手に入れよう!」


「ポジティブ!」



 できるかできないかわからないこと言うのやめてくれない? 突っ込みにくいんだけど。いや、突っ込む必要ないんだけどさ。


 

「もっと別の方法を考えるとかしなよ」


「別といってもな」



 自分で言っておいてなんだが、確かに他に方法など思いつかない。そもそも歌に心得などない。どうすれば、よいハーモニーをかなでられるのかなど。


 そこで、ふと思いつき、俺は口に出す。



「ダンスなら」


「ダンス?」


「あぁ。歌の反応といったら何も歌うだけじゃないだろ。楽器だとか、ダンスだとか他にもある」


「そりゃそうだが。歌うのと何が違うんだ?」


「ダンスなら少しできるんだ」


「何!?」


「ダンスといってもタップダンスだがな。客にタップダンスをやる芸人がいておもしろそうだったから教えてもらった」


「タップダンスとは何だ?」


「あぁ、靴で地面を叩いて鳴らすんだ。その音でリズムをとって踊るみたいなかんじかな」


「なるほど。何にしろ、まったく知見のない歌よりも可能性がありそうだ。そっちにしてみよう」


「え? いや、俺が言ったてまえわるいんだが、冗談のつもりだったんだ。歌でだめならダンスでなんて短絡的たんらくてきな発想だろ」


「短絡的で結構。複雑に考えたら正解に辿たどり着けるわけじゃない。どうせ、あと一回しかチャンスはないんだ。俺達に出せる最適な解答を出そうじゃないか」



 カラスは、子供みたいにわくわくと目を輝かせていた。まるでおもしろい遊びを思いついたかのように。実際には、何もうまくいかず、挑戦できるのもこれが最後で、挑戦の難易度はどんどんあがっているはずなのに、おかしそうに笑っている。


 だから、つられて俺も笑ってしまった。


 荒唐無稽こうとうむけいに思える話。だけれども、不思議と何とかなるんじゃないかと思えた。何よりも、俺達、とカラスに言われて、俺は子供みたいにうれしくなっていた。


 

「よし、じゃ、カラス。明日から練習しよう」


「何を言っているんだ。今からだ」



 ……。


 えー。

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