第10話 攻略法はたいてい地味なものです

「あの、カラス?」


「何だ?」


「昨晩、ゴーレムを倒す方法があるって言ったよね?」


「あぁ、言った」


「その方法って」


「見てわからないのか?」



 いや、そんなこと言われても。


 僕は、ハンマーに吹き飛ばされて、石畳の外にまではじき飛ばされ転がるカラスを見て、素直に思ったことを述べた。



「バカの一つ覚えみたいに正面から突っ込むこと?」


「わかっているなら手伝え。さすがにあのハンマーが直撃したら俺も死ぬかもしれん」


「いやいや、それ、方法って言わないじゃん!」



 この男を信じた僕がバカだった。


 いや、カラスの言うことが本当だとしたら、確かに、他に方法がないとも言える。物理攻撃が通らなかろうが攻撃し、魔法が通じなかろうが、魔法攻撃を加える。


 とはいっても、もう10回。


 カラスは、神殿の守護者、ロックロックに吹き飛ばされている。一方で、ロックロックの方は澄ました顔で、定位置の神殿へ続く階段の前に戻っている。



「この方法じゃ勝てないよ。昨日、それを確かめるために、僕を戦わせたんじゃないの?」


「あれは、おまえがどのくらい反応できるかを見るためにけしかけたんだ。死なない程度にけん制するくらいはできるだろ」


「えー」



 正直、怖いからもう戦いたくないんだけど。


 

「でも、もう、10回もやってだめなんだよ。何かやり方を変えないと」


「バカめ。何を見ていたんだ? 。それが唯一の攻略法だからな」


「同じこと?」


「わかるまで見ていろ」



 立ち上がったカラスは、再びロックロックに突っ込んでいった。


 どういうことだろう。同じことをやることが唯一の攻略法? 普通に考えれば、同じことをやっても勝てるはずがないと思うのだけど。



「あ」



 そこで気づく。


 カラスの動きに既視感があったからだ。そうだ。彼の初撃が、さきほどとまったく同じなのだ。


 そして、ロックロックが、まったく同じ動作で彼の初撃を受ける。その後の展開もまったく同じ。完全に、意図的に同じになっている。


 でも、どうして?


 僕が考えている間に、カラスは、ロックロックと剣をわし合う。しかし、先の戦いのトレースが終わりに近づいたとき、カラスは攻撃方法を変えた。


 先ほどはすぐさま切り返していたが、一拍いっぱく待つ。そして、ロックロックのナイフの一振りをかわしてから、カラスは、踏み込み、彼女のひじに剣を叩きこんだ。


 もちろん、切れはしない。


 だが、カラスはめげずに攻撃を繰り返す。しばらくして、態勢を崩されて、再び、石畳の外に弾き飛ばされるまで。



「もしかして、ロックロックの迎撃パターンは決まっているの?」


「お、気づいたか」


「言ってよ」


「この程度のことに気づかないようでは、戦力にならないからな」


「むぅ」


「正確には、あの定位置に戻ってから、だがな。うまくいった攻撃パターンを同じ戦闘の流れで繰り返しても対応される。だから、うまくいった攻撃を残し、少しずつ変えていくんだ」


「なるほど、それで、もしかしてだけど、関節ならば破壊できたりする」


「その通りだ。だが、すぐに修復するからな。関節を破壊するには、一連の戦闘の流れの中で、多くのダメージを蓄積させるしかない。だから、できるだけダメージを与えられる流れを、こうやって調べていく」


「時間のかかる攻略法だなぁ」


「ちなみに、一週間ほどで、ロックロックの攻撃パターンはリセットされるから、一からやり直しだ」


「時間をかけられるわけでもないのか」



 そもそも一週間もこんなことを繰り返せるとは思えないのだけど。


 

「わかったら、おまえも参加しろ」


「でも、僕が参加したら、ロックロックの攻撃パターンが変わっちゃうんじゃないの?」


「む、確かに。じゃ、今、俺が成功している攻撃が終わったところで入って来い」


「え? それ難しいんだけど」


「文句を言うな。俺のさっきまでの努力が無駄になるだろ」


「だから、最初から説明してくれればよかったのに」



 じとっと視線を向けると、カラスは初めて気まずそうに視線を逸らした。

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