第62話 贖罪
前世での最後の記憶を取り戻す。
奪われてばかりの情けない人生だった。
無理やり奪っていく奴らも許せなかった。
でも、なにより大切な人を守れなかった非力な自分が一番許せなかった。
記憶の追体験によりごちゃまぜになった気持ちを落ち着かせる。
結局、あの後僕はこの世界に召喚され何とか転生することで一命を取り留めた。
でも、なんで彼女がそんな事をする必要があったのか聞く必要があると思った。
明け方のまだ日が登りきっていない薄明かりの中目的の人物に会いにいく。
部屋をノックすると思っていた通り起きていて入室の許可をくれる。
「待ってましたよ、メビウスいえ違う呼び名の方が良いかしら?」
僕の母となって命を救ってくれた人。
「教えて欲しいんだ。どうしてこうなったんだ、いったいあの後何があったんだ……貴方がカナなんだろう?」
そして上野匠海の妻として最後に僕を裏切った人……佳奈恵がなぜ転生者リグレスカーマとして僕を救ったのかを…………。
「もちろん、全て話すわ。信じてもらえるかは分からないけど」
「分かった。まずは聞かせてくれ佳奈恵の事と転生者となった貴方自身のことを」
「見苦しい言い訳だけどまず前世の私、匠海にも話せなかったことから説明するわね」
そう言うとリグレスカーマとしてではなく前世の佳奈恵として自身の身に起きたことを話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの男、
知り合ったと言っても穏やかなものじゃなくて部活の帰りに友達と一緒に攫われたの。
バンは地元では有名な半グレっていうやつのリーダーでその時のアイツは中学生くらいだった。
でも中学生だからって、そんなロクでもない連中が女を攫う理由なんてひとつしかないわよね。
そのままアイツらのアジトみたいなところに連れ込むと嫌がる私をバンは最初に犯した。そしてその後はほか連中にも好きなようにされたわ。
命令されたことを嫌がると暴力を振るわれ何でも言う事を聞くしかない状況下で友達と性奴隷のように扱われたわ。
ホントに何でもさせられたの、過激なAVなんかでやるようなことなら遊び半分で一通り経験させられたわ。
でも、それが突然終わったのはバンの『飽きた』っていうひと言だった。
人を散々に弄んでおいてオモチャに飽きたら捨てるようにポイよ。
私と友達はそのまま大きな段ボールに詰められるとゴミのように自宅の前に放置された。
もちろん家族は行方不明になっていた私が帰ってきたことに喜んだけど私が捨て置かれた状況を見て何が起きたかは察してくれた。だから直ぐに警察には届け出なかった。
警察に訴えれば自分に何があったのか話さないといけないから、体の傷より心の傷を心配してくれたのね。
でも私は泣寝入りするのが嫌だった。
警察にちゃんと被害届を出して証言もした。
そのおかげでバンのグループは捕まって一件落着……そうなれば良かった。
でもね、いくら凶悪犯罪で刑期か長くなっても少年っていう立場だけでアイツラは簡単に戻ってくるのよ……。
それでも、もしかして見つからなければ今も幸せに暮らせていたんじゃないかと思うこともある。
でも見つかった。偶然かもしれないけど私はアイツラの目に留まってしまった。
せっかく過去を克服してタクくんと結婚して前に進もうと思っていた矢先にね。
あっちの世界は一見平和だけど死角は以外に沢山あるのよね、私は貴方の知らないところでまた攫われた。
そしてアイツラはさらに数を増やしていて巧妙になっていた。犯罪がバレそうになると尻尾を切るのよ、未成年者という刑期が軽く済む手下達を用意して、そうなると警察も表面上だけ取り締まれるけど全貌は掴めないままのイタチごっこを続ける。
絶望したわ、また訴えたところで同じだと思ってしまった。そんな奴らに力も何もない私が適うはずが無いと諦めてしまった。
そしてバンはなぜか私に執着していて言う事を聞けばタクくんだけは見逃すって交換条件を付けてきた。
絶望していた私はその条件を飲んだ、どうせ逃げれないのならせめてタクくんだけにはと……。
そうして私はアイツラの性奴隷に戻った。
本当はその時にタクくんとはお別れするつもりだった。でも出来なかった弱い私がタクくんと一緒にい続けたいと望んでしまった。
酷いよね、裏ではアイツラの性処理しながら何食わぬ顔でタクくんの奥さんのフリをしていたんだから。
それに痺れを切らせてバンがとった行動があの出来事よ、私のスマホで貴方を呼び出して私の醜態を見せつけて別れさせるつもりだった。
でも中々貴方は従わなかった。
私があんなに酷い言葉を言ったのに……。
最後まで適うはずがないバンに反抗した。
そのせいで死にかけるほどに。
そして死にかける貴方を見て私も壊れた。
本当に守りたかったものを自分のせいで壊されそうになってようやくなんて情けないけどね。
貴方を殴るのに夢中になっていたバンの首を落ちていたガラス片で後から突き刺してやったのよ。
でも動かなくなった貴方を見て死んだと思った。
だから私も後を追ったつもりだった。
でも、本当はまだタクくんは生きていていることをあの方に教えられた。
予想はついてるかもしれないけど皆がいう光り輝く人って存在ね。
私はあの方に選択を迫られた。
あの方の管理する世界に転生して別人として生まれ変わり異世界召喚を実施しタクくんを呼び寄せ救う方法。ただしその時はタクくんと再び結ばれる可能性は殆ど無いと。
そして、もうひとつはこのままタクくんの命が尽きるのを待って一緒に転生する方法、この場合は巡り合えばタクくんと結ばれる可能性があると。
私は迷わずタクくんを救う方法を選んだ。
タクくんを救う方法があるのなら黙って見てることなんて出来なかったから。
あの方の話によると管理する世界では流れる時間軸が違うのでこの瞬間を記憶している私がいればいつでも地球側のこの時間軸に干渉可能だから焦るなと注意された。
だから私はタクくんを迎え入れる準備をずっと進めた。今度は誰からも脅かされないように絶対的な力を身に着け、生まれを利用して権力も盤石にした。ただし男だけはどうしても苦手でキツく当たる事が多かったけど本懐を遂げるには必要ないものだったので構わなかった。
そして私の魔力も異世界召喚できるまでに高まりあの方に教えられた絶好の時期に再度、忌々しいあの時、あの場所に干渉する事に成功した。そうしてタクくんを何とかこの世界に呼び出すことが出来たの。
あの方の言うとおりタクくんは瀕死だったけど息はあった。治癒魔法で治すことも考えたけどきっとそれでは心の傷は癒されない。だから当初の予定通り
「これが真相よ、今更何を言ったところで過去の私が貴方をタクくんを裏切ったことに変わりわない、貴方をメビウスとして育てたのだって罪滅ぼしのつもりの自己満足にすぎない。私は貴方の幸せを願いながら捨てきれない私の想いに巻き込んで結果的に不幸にしてしまった」
「だから、僕に断罪されるべきだと」
「ええ、ちょうどここに帝国の貴族から私宛に珍しいワインが送られてきてるの」
母上だった人はそう言ってワインを開けると準備していたグラスに注ぐ。
「それは母上が求婚されたという?」
思わず母上と呼んでしまう。
そう呼ばれた母上だった人は嬉しそうに微笑む。
「ふっふ、まだ母上と呼んでくれるのね……そうよ私が気に入ったとか言って求婚してきた男ね」
「意味が分からない、求婚を受けることが断罪になると?」
「ふふ、もうひとつあるわ、これは帝国でしか手に入らない特殊な毒薬」
「えっ」
母上はそう言うと毒瓶をワインに注ぐ。
「メビウス、いえタクくん。アイツ、万丈もこの世界に転生してるわ、あの方とは違う者の手で帝国の皇帝オギリス・ベオサレフ・カラドギアとして……アイツはきっと貴方の妨げになる」
「なっ、アイツもこの世界に転生してるのか」
「ええ、たがらこれは口火、帝国に喧嘩を売るためのね。そして今の貴方なら勝てるわ絶対に」
そう言うと佳奈恵であった母上、リグレスカーマは微笑みながら毒杯を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます