第43話 マリカとアリシア


 マリカちゃんがおじいちゃんと言っていた魔道士と戦いを始めたのか激しい魔力の流れを感じる。

 見た目がおじいちゃんだとしてもダークエルフである私よりは年下なのだろうからおじいちゃん扱いは失礼かもしれない。

 近くにいて、戦いを見ている相手パーティのお姉さんに聞いてみる。


「あの〜、どう思いますか〜」


「唐突に話を振らないで下さい。そもそも話の流がわかりません」


「あ〜、実はですね〜」


「説明は結構です。そもそも私とアナタは今は敵同士なのですよ馴れ合うつもりはありませんので」


 対話を拒まれ少しだけ悲しくなってしまう。

 そういう意味ではマリカちゃんは怒りながらもだいたいは私の話に付き合ってくれる。


 そんなマリカちゃんもだけど旦那様の周りの人達は良い子ばかりで、ついつい甘やかしたくなるのだけど、一番お姉さんの私に威厳が無いせいか余り甘えてくれないのが今の所の悩みである。

 結局、一番甘えてくれるのは夜の旦那様で私の胸に包まれているときはまるで童子のようで可愛らしさすら感じることもある。


 旦那様と出会う前の私からすれば思いもよらなかったことだった。


 私は古の魔女から一族の血を絶やすための呪いを掛けられていたからだ。

 呪いの力は触れた男の生気を全て吸い取り魔力としてしまうもので、その事で私はいつの間にか『呪われし永遠の乙女カースドメイデン』と呼ばれるようになり、いつしか男はおろか女ですら私に触れること恐れるようになってしまっていた。


 それは私に長い孤独の時間をもたらすことになった。


 もちろん呪いを解こうとした私は呪の源となった名もなき神ディーアティの痕跡を追い求めて各地のダンジョンと古代遺跡を渡り歩いていた。

 そしてハルンホルにやって来た時に運命の旦那様と出会った。


 旦那様の持つスキル『母なる女神の加護』により名もなき神ディーアティの力は相殺というか駆逐され苦しんできた呪いがあっけなく解けた時は年甲斐も無く子供のように泣きじゃくった。

 そしてそんな私を慰めてくれ初めて触れることが出来た男に惚れないわけはない。

 元より私の血族は魔力の強い男性に惹かれる傾向もあり胸を使って積極的に迫ったことで旦那様となんとか結ばれる事が出来た。

 その時はアリアちゃんとクロエちゃんは余り問題にしていなかったが、マリカちゃんは頭を抱えて唸っている様子だった。

 後で聞いたらマリカちゃんは転生者で前の世界では一夫一妻制だったらしくこういう状況に慣れきっていないからとの事だった。

 旦那様も転生者だが記憶が定期的にしか戻らないことと、こちらの世界の影響も強く受けてる上にアリアの進言もあって等しく愛してくださる事を約束してくれた。


 そんな旦那様との思い出を振り返っている間にマリカちゃんは相手をどんどん追い詰めて行く。


「これはどうかしら【火炎咲花ファイアブルーム】」

 

 マリカちゃんの魔力が渦巻いておじいちゃん魔道士を包み込む。

 相手は既に魔力が付きかけており、この時点で勝敗は明白だった。


「ヘレン、何をぼさっとしておる。さっさとワシを回復せんか使えぬヒーラーめ」


 しかし魔道士は諦めていないらしくこちらの方向に怒声で命令してくる。


「申し訳ありませんバロム様。いま回復させます…………あれっ?」


 ヘレンと呼ばれた回復士の娘が慌てて反応し、バロムと呼んだ魔道士を回復させようと魔力を紡ぐが上手くいかない。

 それは当然で理由をヘレンさんに教えてあげる。


「ヘレンさんでしたっけ〜、ちょっとだけ【魔力阻害ジャミング】で魔法を使えなくしちゃいましたよ〜」


「なっ、いつの間に」


「ついでに〜、貴方の胎内にいた〜、気持ち悪い澱み、取り除いておいたよ〜」


魔力阻害ジャミング】を掛けるときに魔力の巡りを確認したところ、明らかに彼女の体内、子宮あたりにに禍々しい異物が巣食っていたので【浄化精製ピュリフィケーション】で除去しておいた。


「えっ、本当に私でも無理だったのに」


「あなたなら〜、わかるでしょう〜、自分の中のこと〜」


 私に促されヘレンが自らの体内を【状態精査ステータススキャン】で確認する。


「ええ、本当にあの忌々しい蟲がいなくなってる…………」


「どうした、早くワシを回復させぬか役立たずめ」


 その間にも魔道士は回復の催促を続けるが無視して話を続ける。


「それで〜、どうしますか〜、まだあなたが戦うなら〜、お相手しないと〜、いけませんけど〜」


 あの魔道士に仕方なく従っていたなら戦う必要はないだろうけど一応意思を確かめてみる。


「蟲が居なくなったのなら私に戦う理由はありませんし、あのクソジジイを助ける必要もなくなりました」


「それじゃあ〜、あのひと〜、殺っちゃって良いんですね〜」


 ヘレンは頷くと言葉を続ける。


「私以外にも大勢の女達が犠牲になってます。あんなヤツ死んで当然ですよ」


『マリカちゃ〜ん』


 私は念話でマリカちゃんに声を届ける。


『何よ相手は大したことないけど戦闘中よ』


『その〜、相手だけど〜、予想以上の外道なクソジジイらしいから〜、殺っちゃっていいよ〜』


『そうなの、一応手加減してたんだけど、それならさっさと止めを刺しちゃうわね』


『あ〜、出来れば〜、苦しむやつでとお願いされました〜』


『ああっ、面倒くさいわね。分かったわよ』


 マリカちゃんがそう言うと魔力の流がいったん止まる。



「ねえ、魔道王のジジイさん、これからあなたを殺るから、全力で抗って見せなさい」


 マリカちゃんが魔道士のクソジジイを挑発する。


「くっ、小娘風情が調子に乗りおって、良かろうダンジョン内だから力をセーブしておったがワシの本気の大魔法見せてやる」


「御託はいいから早くしなさい!」


「ならば食らうが良い【暗黒破壊光線ダークデストロイヤー】じゃ!」


 突然ジジイの魔力が膨れ上がり禍々しい魔力がマリカちゃんに向けて放たれる。


「魔妖蟲から魔力を補充するとか本当にゲスジジイね。これなら遠慮なく叩き潰せるわ」


 マリカちゃんはそれに動じることなく冷静に魔力を練り上げるとジジイとは対照的な輝く魔力を放った。


「ばかなぁ! ワシの【暗黒破壊光線ダークデストロイヤー】が【光破レイブラスト】ごときに相殺されるなどありえん」


「目の前で見たでしょう、初級ローだろうが中級ミドルだろうが魔力の注ぎ込みかた次第では威力を上級ハイ以上、今のように戦術タクティカル級の出力だって可能なのよ」


「そんなこと、聞いたことないぞ!」


「私も目の前で見るまでは信じられなかったけど、私の身内にいるのよね、そんなことを平気でやってのけるダークエルフがね」


 どうやら私のことを言っているようだ。

 私は特に意識したことはなかったけど人間の魔法理論からすると私の魔法の使い方は非常識のようだ。

 隣で話を聞いていたヘレンも『どうりで』と納得していた。


「認めん、認めんぞ、魔道の王まで登りつめたワシが小娘ごときに遅れを取るなんて」


「あら、残念だけど魔道王ごときじゃ魔神の位階まで到達している私には届かないわよ、それじゃあ永遠に夢の中で苦しむと良いわ【永巡する悪夢エンドレスナイトメア】」


 マリカちゃんにしては珍しい黒い魔力がジジイに向けて放たれる。


「いやじゃ、いやじゃ、ワシが何をしたと言うんじゃあ、ヘレン早くワシを助け………むぎゃあぁぁ」


 ジジイが絶叫を上げて大人しくなった。

 何事もなかったかのようにマリカちゃんが私達の方に近づいてくる。


「それで、その回復士は降参で良いのね?」


「はい、助けてもらいましたし、回復士の私ではどうあがいても勝てませんから」


「助かります〜、ヘレンちゃんは本当は良い子なんですね〜」


 私はヘレンちゃんに近づき抱きしめてあげる。

もう気の流れのも澱みは見られないので完全に大丈夫だろう。


「とりあえず、このジジイで最後だったみたいね。一人は逃げたみたいだけど……このジジイは魔妖蟲もあるしラボ行きね」


「おそらく逃げたのはアイザックさんですね。彼だけは姫様の直属でしたから別命があったのかもしれません」


 ヘレちゃんが内部事情を教えてくれる。

 相手の目的も分かるかもしれないのでアリアちゃんにも聞いてもらって方が良いだろう。


 私は皆を呼んで集まってもらうと、ヘレンちゃんから知ってることを話してもらうことにした。

 

 

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