第31話 星十字集合
案内された屋敷は街長の屋敷所よりは小さかったけどパーティメンバーの拠点とするには十分の広さだった。
姉様達と相談してそれぞれ部屋を割り当てる。
護衛の者と御目付役は、そのまま屋敷の警護とお世話係として残ることになった。
兄様は残念ながら今回のダンジョン攻略には参加されないが、私のために一振りの剣と兄様の印章が刻まれた金の指輪、それから金のバレッタを準備してくれていた。
「クラリス、この剣はクロノキャリバーといって強力な時空間魔法を封じている。それからこの指輪は僕の代行として星十字に武装展開を許可する権限を3度与えるものだ」
「その3度以上使うとどうなるのですか?」
単純な疑問を兄様にぶつけてみる。
「今回の件は失敗とみなしてダンジョン攻略は僕が代わりに行う」
つまり私の力がその程度だったと示すことでもあり、兄様を失望させてしまう事になるだろう。
「分かりました。兄様の期待を裏切らないように頑張ります」
「頑張るのは良いが、無理だけはするなよ」
兄様から温かい言葉を掛けられ、思わず嬉しくなって調子にのってしまう。
「大丈夫です。姉様達に武装展開させることなく、必ずダンジョンを攻略してみせますから」
「それを無理と言うんだ。使い所を見誤るのも失敗と同義だぞ、必要な時に必要な手を打つ、それも上に立つ者の資質だ」
兄様に釘を刺され、少し落ち込んでしまう。
「済みません兄様、グスッ」
「いや、その、僕が言いたかったのは、任務なんかよりクラリスの方が大事だということだ。出し渋って危険に陥るのは本意ではないからな」
私が落ち込んだせいか、慌てて兄様が私の頭を撫でて、なだめてくれる。
エイミィと同じで私も兄様から撫でられるのは好きだが、私はもう幼子ではないので、こういう時はギュッと抱きしめてくれた方が嬉しい。
でも、ナデナデしてくれるのはやっぱり、これこれでイイものだ!
「……ありがとう兄様」
「まずは自分の安全を一番に考えてくれ、そのためにこれも渡しておく」
兄様は見事な装飾がされた金色のバレッタを私に差し出してくる。
「兄様、折角なので付けて下さいますか」
私は今付けている髪留めを外すと、輝く銀色の長い髪をなびかせながら後ろを振り向いた。
「あっ……ああ、分かった」
一瞬戸惑ったような声を上げると優しく私の髪を軽く梳きひとつ結びに纏めると金のバレッタで留めてくれた。
「どうですか、似合ってますでしょうか?」
私は兄様に見てもらうため、くるりと舞うように一回転し感想を尋ねた。
「ああ、とても似合ってるよ綺麗だ」
そう言ってくれた兄様の目は優しい眼差しで私を見てくれていた。
兄様の眼差しに照れくさくなってしまった私は誤魔化すようにバレッタの効果を尋ねた。
「兄様。この髪留めの効果は何でしょう?」
「ああそれは、僕の魔力を受信するアンテナと言っても分からないな……僕から送られた魔力を貯蔵してくれる、いざとなればそこから魔力を補給できる代物だ」
「分かりました。どちらにせよ兄様から頂いた大切なもの代わりと思って大事にさせて頂きます」
「ああ、ダンジョン内では僕の代わりと思って身に付けておいてほしい……クラリスお前なら問題無くダンジョン攻略出来るはずだ、気負いすぎるなよ」
そう言うと兄様はそのまま残りの剣と指輪を私に預け転移で戻って行った。
『兄様と思って身に付ける』その言葉で頭が一杯できとんと挨拶出来なかったのが悔やまれた。
夕食は兄様は帰ってしまったが、兄様の話題で盛り上がって皆で楽しく済ませた。
その後は姉様達から改まって
「クラリス様、今更ですがまずは私から名乗らせて頂きます」
「ええ、宜しくお願いします」
「では……私は星十字主席を務めております、名をアリアスフォード・ハイアット。クラスは『デバステイター』、称号は『剣神』、得物はこのメヴィ様から頂いた『桜花残焦』そして封具は『
名乗りと共にアリア姉様がうっとりと兄様から頂いた刀を眺めていた。
きっと、この方は兄様の為なら迷わず神すら切り捨てるだろう。
同じ剣を扱うものとして私が目標とする人物の一人でもある。
「次は私ねクラリス。星十字次席で名はマリカマリウス・ゼオ、クラスは『ハイ・ウィッチ』、称号は『魔神』で通名は『獄炎の魔女』ね、攻撃は魔法メインで、封具は『
マリカ姉様の魔法に関する逸話は学園に今でも残っており無数の通り名が畏怖と敬意を現し、その魔力は兄様を除けば歴代トップだったらしい。
「クラリスちゃ〜ん。三席のクロエちゃんがいないから四席の私ね〜。名はアリシア・グラトーよ〜、クラスは『オラクル』で〜『
アリシア姉様はある意味私が最も羨む最強の胸の持ち主で、目が見えないのに関わらず何度も兄様の窮地を救った回復魔法のエキスパートだ。
「クラリス、あたしは……」
「ええ、エイミィは以前受けたから分かるわ」
獣人族は家名は持たず、族名を名乗る。
なので彼女の場合はエイミィ・フォレスティ。
席次は五でクラスは『デュエリスト』で称号は『闘神』、素手と伸縮自在の爪による攻撃、それから身体強化の魔法を得意としている。
兄様から与えられた封具は『
「ぐすっ、クラリス。あたし名乗りたかったのに……」
涙目になるエイミィに慌てて近寄り慰めるために頭を優しく撫でて謝る。
エイミィは撫でられるのが好きなので何とか機嫌を直してくれて助かった。
以前、エイミィのおやつを間違えて食べてしまったときは拗ねて丸一日口を聞いてくれなかったこともあったからだ。
「二日後にはクロエも到着するとの事です。そこからダンジョン攻略に取り掛かる手筈でよろしいですね?」
アリアが最終確認を私に求める。
今回は私がパーティのリーダーとして皆を率いていく立場だ、実力的には姉様達にはまだまだ敵わない、だけど兄様の期待に絶対応えて見せる。
「はい、まだまだ未熟者ですが皆さんどうか力を貸してください、よろしくお願いします」
私はエイミィと姉様達にパーティメンバーとして頭を下げてお願いする。
「お任せ下さい」
「私が付いてれば問題なしよ」
「もちろんですよ〜」
「クラリス、あたしが守る、安心!」
皆の心強い返答に思わず目頭が熱くなり、自然と御礼の言葉が溢れる。
「ありがとう。エイミィ、姉様」
そんな私を皆は笑顔で見守ってくれていた。
そして2日後、予定通り『武神』と特に兵士達から恐れられているクロエ姉様が早馬に乗ってメイサに到着した。
「クロエ姉様、わざわざ御足労頂きありがとうございます」
「やあ、妹様久しいな、主様の命とあらばどこだろうと馳せ参じるのが武人というものです、気になさるな、ハッハッハッ」
豪快に笑い飛ばし馬から降りる。
兄様とほぼ同じ背丈で筋肉質な体だが無駄の無いくびれたウエストとキュッと上がったお尻は美しく鍛えられており、胸も釣鐘形で上向きの綺麗な形を保っていた。
そんな無駄な脂肪も、無駄な筋肉もない、正に絶妙のバランスで作り上げられた肉体は私から見ても美の結晶と思えた。
「なんだ妹様、そんなにじろじろ見られるとさすがに恥ずかしいぞ」
「いえ、いつ見てもお美しい体で、私感動して、憧れてしまいます」
「なっ、なっ、何を言う妹様。わたくしなど戦場でしか活躍出来ぬ無骨者、妹様のような可憐さとは縁遠い存在ですぞ」
健康的に日焼けした顔が自身の髪の色のように真っ赤に染まり慌てふためく、その仕草が逆に可愛らしく思わず笑みがこぼれてしまう。
「ふっふっ、クロエ姉様は相変わらずですね」
「なっ、妹様、わたくしをからかったのですか?」
クロエ姉様が更に顔を真っ赤にして私に詰め寄ってくる。
「いえ、クロエ姉様をお美しいと感じたのは事実です。きっと他の皆様も同じですよ」
「そうですよクロエ。今回は
いつの間にか側に来ていたアリア姉様が厳しくクロエ姉様を問い詰める。
「いや待て、アリア。わたくしにメイド服など似合わぬと毎回言ってるであろうが」
「何言ってるの、中身は一番乙女なくせに。メビウスだってそのギャプにやられちゃったのよね」
またしてもいつの間にか側にいたマリカ姉様がクロエ姉様の右手を掴むと引っ張って行く。
「あらあら、相変わらず美しい気の巡りですね〜、目が見えないのが残念です、きっと最高の肉体が拝見できましたのに〜」
目の見えないはずのアリシア姉様もいつの間にかクロエ姉様を先導するように前に立つと屋敷の中を案内して行く。
そして、たどり着いた部屋の前では学園の制服からアリア姉様達と同じメイド服に着替えたエイミィが待ち構えていた。
「クロエ……よく来た、ここで早く着替えろ!」
エイミィが部屋の扉を開けると、アリシア姉様が先に入って手招きをする。
導かれるままにマリカ姉様に手を引かれたクロエ姉様が入ると後ろから付いてきていたアリア姉様が入り扉を閉めた。
「あのエイミィ、クロエ姉様は大丈夫なの?」
「クラリス心配ない、いつもの事、気にしちゃ負け!」
扉を守るように立ちはだかるエイミィはどこで知識を仕入れたのかこのタイミングで親指を立てる。
部屋の中から慌しい音が響き心配になるがエイミィは気にした様子を見せないので大丈夫なのだろうと待つ。
ようやく騒ぎが収まり、部屋の中から出てきたのは、社交の場に出れば間違いなく男性の視線を独り占めするであろう美女……それがメイド姿で現れたのだ。
ざんばら髪は綺麗なストレートに整えられ、元々の顔立ちを活かした薄化粧がより美しさを際立たせ、鍛えられたスタイルの良さはメイド服に着替えたことで、より女性的な部分を補強し強調する。
なにより堂々として剛毅だった態度が、今や自信なさげでオドオドし、人によっては被虐心か保護欲を刺激するような姿に変わっていたのが驚愕だ。
確かにこの差を見せられれば兄様がおちた理由も分かる。
私も今後の兄様対策の参考にしようと思ったほどたったから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます