第18話 小日向の秘策

 小日向と待ち合わせをしたのは、駅前のハンバーガーショップだった。


「おまたせー。ごめんね、待った、よね?」


 二つのおさげを揺らしながら、小日向は小走りでやって来た。


 小日向は薄青色のカーディガンに、ベージュ色のワンピースを着こなしている。春らしい柔らかな印象は、彼女という人柄によく合っていた。


 二人は店内に移動すると、ポテトとジュースを頼んで座席に移動した。

 窓際の席を選んで腰を下ろすと、最初に夏樹は急に呼び出したことを詫びた。


「急に呼び出してごめんな」

「いいよいいよぉ。それで、冬陽ちゃんのことで相談って何かな?」

「ああ。実はな……」


 夏樹は冬陽が大きくなったこと。それで焦っていたところに冬陽が話しかけてきて、思わず喧嘩をしてしまったことを話した。


 小日向は、一連の話を聞いて苦笑する。


「あ、あはは……。でも、お父さんやお兄さんがいる家庭だと、そういうのってよくあることだと思うよ。私も、中学の頃はお父さんに色々言っちゃったなあ」

「でも、あの言い方はないだろ。昔の冬陽は、あんなんじゃ――」

「春野くん。今の冬陽ちゃんは――」

「分かってる。でも、どうしても比べようとしちまうんだ。そこに答えがあるような気がして……でも、なかなか上手くいかないもんだな」


 お互い、黙りこくってしまう。

 小日向はスマフォを操作しているようだった。やがて電源ボタンを軽く押してスマフォを仕舞うと、仲直りの方法を探っていた夏樹に微笑みかえた。


「一応、若菜を冬陽ちゃんのところへ行かせるようにしたから。もし何かあっても大丈夫だよ」

「ごめん。また世話になっちまって」

「いいってばぁ。困った時はお互い様、だよ?」


 そう言いつつ、小日向は大きな紙袋をテーブルに置いた。


「な、なんだそれ?」

「今の冬陽ちゃんの服ってないよね? 私のお下がりを持ってきたんだけど、よかったら冬陽ちゃんにあげてほしいかな、って思って」


 そう言って、持っていた紙袋を持ち上げる小日向。お節介だと思っているのか、彼女は眉を八の字にして遠慮気味に笑っていた。


「重ね重ねすまん」

「わわわっ。だから謝らないでよー。私のところは姉妹だし家族もいるから対応も楽だけど、春野くんのところは春野くん一人なんだから。助けさせて……ほしいかも」


 そう言われたら断ることはできない。

 冬陽の病気が完治したら、彼女に恩を返さなければ。そう思う夏樹だった。


 小日向は、そっと紙袋を夏樹に手渡す。その時に、何か閃いたかのように「あっ」と声を漏らした。


「ん? どうした?」

「そうだっ。プレゼントだよ、春野くん!」

「プレゼント?」

「そうそう! 冬陽ちゃんに服をプレゼントするんだよ。あの年の女の子はオシャレにも敏感になる年頃だからねー。高いのは無理だけど、駅前ならそこそこの値段でもいいものが買えるし……うん! プレゼント作戦でいこうよ!」

「そんなもので冬陽の機嫌が直るかなあ」


 懐疑的な夏樹の台詞に、小日向は力強く頷いた。


「大丈夫だよぉ。好きな人からのプレゼントなら、女の子は幸せになっちゃうから!」

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