百日草を添えて

荊薪薩王

百日草を添えて

窓際の席で数学の意味の分からない解説をBGMに、幼なじみの運動してる姿をなんとなしに眺めている。


 こんなに晴れてるというのに、私の気分は最悪だ。早く帰りたい。いっそのこと、どこかへ消えてしまいたい。


 ――キーンコーンカーンコーン


「では、ここを来週までにやっておくように」


 退屈な授業が終わった。



 でも、まだあと1時間授業がある。手持ち無沙汰になり、イヤホンをして、音楽をつけ、机に伏せる。


 いつも聞いてるラブソングを聞く気にはなれず、何を言ってるか分からない洋楽を適当に流す。


「おーい、瑞希みずきさんやー」


 毎日聞いてる幼なじみが話かけているようだ。どうしても意地悪したくなってしまう。


「起きてるのは分かってるんだぞー。えい!」


「ヒャッ」


 腋は弱いからやめて欲しい。そういうところだぞ。


「何?」


「そんなに睨まないでよー。借りた体操服を返しに来ただけだよー」


 冷たく当たってしまう。言葉が短くなってしまう。いつもこうだ。だから大事なことに気づいてもらえない。


「ありがとねー」


 この子はおっとりしていて男心をくすぐるのかとにかくモテる。よくそれ関係で相談もされた。



結愛ゆあ、やっぱりここに居たんだね」


 このどこにでも居そうな男は私の幼なじみの彼氏だ。最近付き合い始めたらしい。こんなののどこが良いのか。そう言ったけど、珍しくふくれっ面をして、怒ってきた。


 その反論から彼女がどれだけ好きなのかを感じられた。


 そして、何故か今回に限ってなんの相談も無く事後報告された。



 それが今日の昼休みだ。




 なんで17年も生まれた時からずっと一緒にいたのに私じゃないのか、ぽっと出のやつに掻っ攫われなきゃいけないのか。


 自分がどんな表情で「おめでとう」と言えたか。


 何もかも分からない。



 ――ピロンッ


「L○NEきてるよー」


「わかってる」


 お母さんからだ。


 学校の時に送ってくるのは滅多にない。なにか嫌な予感を覚えながらトーク画面を開く。


 …………


「……結愛、ちょっといい? 荷物も持ってきてくんない?」


「ん? いいよー」


「彼氏くんは席を外してもらっていい?」


「え、あ、うん。僕は教室に戻ってるよ」


 私も荷物を持って、結愛が来るのを廊下で待つ。


「お待たせー、どうしたの? 怖い顔してるよー。折角美人さんなんだから笑わないとー」


「体調悪いから付き添いお願い」


 嘘をつく。こうでもしなきゃ……



「とりあえず保健室行かなきゃだね」



「いい、家に着く前に倒れたらまずいから寄らずに帰る」


「え、でも……」


「大丈夫」


「……もう。変な所で頑固なんだから」









 彼女は病人を気遣っているのか、話しかけてこないから、お互い無言のまま電車に乗る。



「……ねえ、このままどこか遠くに行かない?」


「ダメでーす。病人は安静にしなきゃいけません」


「体調悪いのは嘘」


「へ?」


「誰もいないどこかへ一緒に行かない?」


「私たちは高校生なんだから、ダメだよ?」


 でも、


「私さ、お父さんの急な転勤で来週にはもうこの町には居ないんだ」


「うそ……」


「本当だよ。次会えるのはいつになるか、もしかしたら大人になるまで会えなくなるかもしれない」


「……」


「というか、なんか元々決まってたみたいだけど、私に言うタイミングを逃してたみたいでこんな急になったんだって」


 まるで今までの分かと思うほど言葉が溢れ出た。


「どう?」


「すごい残念だけど、もっといっぱいいたかったけど、でも……」


「泣きすぎ。それに、どこかへ行こうってのは半分冗談だから」



「そうなのね、でも、今からでも2人でお別れ会とか、そういうの、したい。少しでも長く」


「ごめん。新幹線で今日このまま行くみたいだから、それはできない」



「そっか、わかった。それは……残念だけど、また連絡するよ?」



「もちろん」



「お見送りもするねっ」


「……あのさ」


「うん?」


 新幹線が通ってる駅は次だからこれが最後の機会。


「私、結愛のことが恋愛的な意味で好きだった」


「????」


「でも、結愛には好きな人がいて、だから、えーと、」


 泣きそうになる。ここで泣く訳にはいかない。ちゃんと最後まで、自分の言葉で、想いを伝えて終わりにする。


「結愛は幸せになって! 私は私の人生を歩むから。きっといつか、こんな日があったねって語り合えるように幸せでいて!」


『ありがとうございました〜○○○○〜○○○○です』


 着いたみたい。


「見送りはいいや。じゃあ、またいつか会おう」


 ――チュッ




 おでこにキスをして、電車を降りる。最後に呆然とした彼女の顔が見れて、満足だ。

 

「まん、ぞく、なんだけどな〜」




 涙が止まらない。昼で人が少ないといっても大きな駅だから居ないわけではない。トイレに駆け込んで一生分の涙を流しきった。






































 ……なんてこともあったな〜。今は随分丸くなったと思う。


 今は私も立派な社会人。言い換えると、休みの少ないただの社畜。あまり結愛とは会えてないが、連絡はちょくちょくしてる。


 そして、ついさっき彼女の結婚式招待状が届いた。お相手はあの時の彼氏のようだ。幸せそうで何より。


 それとは別で何かが送られてきた。



 赤とピンクの間のような色の花だ。

 百日草(ジニア)と書いてある。


 何か意味が込められていそうで検索をかける。


 ……彼女らしいな。ホントに。きっと彼女も昔のことを思い出しながらこれを送ったんだろう。


 もう少し感慨に耽りたかったけど、出社しなければいけない。こんなことなら、昨日届いてたんだから開けとけば良かった。後回しは良くないね。


「いってきます」


 誰もいない部屋に挨拶して日常に戻っていく。




























 百日草(ジニア)

 花言葉:【不在の友を思う】【遠い友を思う】【別れた友への想い】【絆】【いつまでも変わらぬ心】etc……






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百日草を添えて 荊薪薩王 @yomusenn210

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