第533話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略三日目のおはようのキス

 顔を離した祐介の顔をまともに見る勇気がなくて、リアムは目線を下げて祐介の視線と絡むのを回避した。


 祐介の手はまだリアムの肩を掴んだままである。


「……また僕、やり過ぎた?」


 祐介が屈んでリアムの顔を正面から覗き込んできた。リアムは恐る恐る目線を戻すと、祐介の顔にはまた不安が見てとれた。しまった、また祐介にこんな顔をさせてしまった。そういうつもりはなかったのに。


 リアムはその場を何とか取り繕おうと、先程自身で考えたことをとりあえず口にした。


「しょっ」

「しょ?」

「娼館でまた来いと言われなかった原因は、私のこういった技術の欠如に原因があるのかと思ってな!」

「娼館」


 祐介が一瞬キョトンとした顔をした後、肩を震わせてくつくつと笑い始めた。何故ここで笑うのか! リアムはムキになり、反論を始めた。


「笑うのは失礼であろう! 当時の私にとっては、かなり重大な悩みだったのだぞ!」

「ふふ、あははははっ! ごめん、真剣だったんだよね、もう君ってとんでもない方向から来るから、本当堪んないよ」

「とんでもない方向とは何だ!」


 祐介は目の端から涙を流しながら笑い続けている。


「君らしいなって褒めてるんだよ」

「褒めてる様にはちっとも聞こえん!」

「そっか、でもそう言うってことは、僕の技術はいいと認めてもらった形になる訳か」

「お前はすぐそういうことを!」


 リアムが真っ赤になって反抗すると、祐介はリアムの頭をぽんぽん叩いた。顔にはひくひくと笑みが浮かんだままだ。


「ごめん、こういうのは苦手だったよね。この辺にしておきます」


 祐介はそう言うと、リアムのおでこに軽いキスをした。


「改めておはよう」

「お、おはよう」

「僕にはしてくれないの?」

「わっ私にだって出来る!」


 リアムは祐介のおでこを狙ったが、届かない。


「祐介、しゃがんでくれぬと届かん」

「自力で頑張ってよ。偉大な魔術師なんでしょ」


 今日の祐介は少し棘がある。昨夜の仕返しかもしれない。やはり時折見せるこれは幼さの表れか。


「ほら、待ってるんだけど」


 祐介がにっこりとしながら見下ろす。成程、頭を使えということらしい。リアムがきょろきょろと辺りを見回すと、祐介が条件を付けてきた。


「道具の使用は禁止します」

「な、何だと!」


 リアムはキッと祐介を見上げ、時折アールの阿呆がウルスラにやって怒られていたことを思い出した。


「祐介、その場から動くなよ!」

「え? うん」


 リアムはさっと祐介の背後に回ると、膝で祐介の膝裏を押した。


「おわっ」


 祐介がカクン、と膝を折る。今だ! リアムは急いで前に回り込むと、逃さぬ様祐介の頭を腕でがしっと固定し、おでこにちゅっとキスをした。


「取ったぞ!」


 満面の笑みで宣言すると。


「……そんな、鬼の首を取った様に言わなくても」


 リアムの胸に顔の下半分を押し潰された祐介が、頬をピンクに染め目を泳がせながら、もごもごと言った。


 またやってしまった。リアムが慌てて祐介を離す。


「……参りました、降参」


 祐介が、ふにゃ、と笑った。

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