第453話 魔術師リアムの上級編二日目の午後、戦闘準備の続き
その日の午後は、服の購入と祐介の化粧の練習に殆どの時間を費やした。
どうやっても郁姉が施したのと同等のものが出来ないと、祐介が意固地になり繰り返し繰り返し郁姉に問い合わせ、参考動画を見、ようやく祐介が納得いくものが出来たのが夕刻だった。
「祐介は凝り性なのだな」
「何でも出来ないのは悔しい」
「なかなか魔術師の素質があるかもしれんぞ」
「そう? さ、鏡見て。大分いい感じだと思うけど、どう?」
祐介に促され、リアムは鏡を覗きに洗面所へと行った。鏡の向こうからリアムを見つめ返しているのは、前に一度見た美人だった。
「なかなかの化けっぷりだな」
「一応自分のことだからね?」
「後はこの髪型だな」
「それはお任せ下さい! 郁姉から簡単に出来る大人っぽいアレンジを教えてもらったから!」
祐介はそう言うと、ヘアオイルを手に付け早速頭に触れたかと思うと、祐介曰くゆるふわくるりんぱ付き三つ編み、
「おお!」
鏡を見てリアムがその出来に驚くと、
「うわ、可愛い」
と、背後にいた祐介が言った瞬間、抱き締めてきた。リアムは思わず硬直する。
「ゆ、祐介、突然は驚くぞ」
「あ、ごめん。可愛すぎてもう自然に抱き締めてた」
そう言って、鏡に写るリアムの目をじっと見つめてきた。
「可愛いものを見るとぎゅっとしたくなる心理あるでしょ、あれだよあれ」
「それは一体どんな心理だ」
「あれ? まさか経験がない?」
「くっ! 何故か敗北感が凄いぞ!」
「まだまだだね」
「……何か今日の祐介は煽りが強くはないか?」
「煽られても仕方ないと思うけど」
成程、早川ユメとの交渉にリアムが名乗りを挙げたのが、余程気に食わないのか。だがそれでも、やると決めたらそこに辿り着くまでの最適の状態まで持ってきてくれる辺り、さすがは祐介だ。
「さて、じゃあ夕飯の買い出しと併せて、人気のない公園を探そうか。どの程度の広さがあればいい?」
「周りに引火しない程度の広さは欲しいな」
「すっごい微妙で分かんないよそれ。そうしたら、片っ端から行こう」
「うむ」
リアムと祐介はバタバタと支度すると、近くの公園に向かう。
道すがら、祐介が思い出したかの様に言った。
「最近手紙もらってない」
「あ」
「忘れてたでしょ……」
「味噌汁の研究もしておらん」
「サツキちゃん、あれこれ詰め込み過ぎなんだよ」
「半分以上は不可抗力だと思うのだが」
羽田の件や久住社長との飲み会は、別にリアムの所為ではない。
「でも、それがサツキちゃんだよね。もう知ってるし」
「私が問題児の様な言い方をするな」
「ふふ、問題児っていいね。ぴったり」
「祐介!」
やはり今日の祐介は少し棘がある。別に優しいばかりが祐介ではないだろうからそういう日もあろうが、時折祐介の本音はどこにあるのだろうと思う時があった。
「別に悪口じゃないよ。僕をこんなに振り回しても僕がいいやって思えるのは、君だけだから」
祐介はそう言ったかと思うと、さっとリアムの鼻の頭にキスをした。
「ゆっ」
「なに」
振り回しているのは祐介の方だろう。そう言いたかったが、口から発せられることはなかった。
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