第396話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下一階のファイヤーゴースト

 ユラがふう、と息を吐くと、サツキを見た。真剣な顔だった。


「サツキ、一緒に前に出てくれ」

「分かった」


 サツキは頷いた。ユラは色々と詳しい。ファイヤーゴーストの火種の採取方法も知っているらしいので、この人は実は勤勉家なのだろう。ふらふらしている様に見えても、実は色んなことに真剣なのはここ数日共に過ごしてよく分かった。


 つまりは口が悪くて皮肉屋なだけだ。それが大分印象を悪くしているだけで。


「ユラ! 俺達はどうすればいい!?」

「他のモンスターが現れたら対処してくれ」

「分かった!」


 ユラと前衛に出ると、ユラが言った。


「サツキ、しっかり手を握っててくれ。引っ張り込まれない様に」

「は?」


 どういうことだろう? サツキがユラを見ようとすると、ユラが指示をした。


「よそ見するな! 前を見てフリーズだ! 解けそうになったら追加してくれ!」

「分かった! フリーズ!」


 サツキがフリーズの呪文を唱えると、ファイヤーゴーストが動きを止めた。


「本当よく効くよなー」


 ボソリとユラが呟いた。


「ウルスラ! 瓶をくれ!」

「うん!」


 ウルスラがユラの空いている方の手に瓶を渡した。ユラが、瓶を持った手をファイヤーゴーストに近づけていく。


「え? ユラ!? 触っちゃ危ないんじゃないの!?」


 ファイヤーゴーストの表面からは半透明の無数の手が飛び出しているが、どう見てもこのモンスターは身体の周りに炎を纏っている。


 だがユラはどんどん近づいていく。サツキはユラを引っ張った。


「ユラ!? 離れて! 火傷するよ!?」

「だからファイヤーゴーストの火種は僧侶しか採取出来ないんだ」


 ユラがこめかみから汗を流しながら、笑った。どういう意味だ? 何故僧侶しか出来ない? サツキが不安に駆られていると、ユラが笑って言った。


「サツキが命綱だ。しっかり頼むぜ」


 そう言った瞬間、ユラがファイヤーゴーストの身体の中に瓶を持った手を突っ込んだ。


「うああああっ!」

「ユラ!」


 ファイヤーゴーストに触れたユラの皮膚が燃え始め、赤く爛れる。すると、ユラがぶつぶつと唱え始めた。ユラの白い腕に、黒い痣の様な模様が昇ってくる。


「来るんじゃねえよ! サケル・ルーメン!」


 すると、肘のあたりまで登ってきていた痣がどんどんファイヤーゴーストの方に押し戻されて行く。凄い凄い! ユラ格好いい!


 手の火傷は出来ては治り、出来ては治りを繰り返している。これまさか、燃えてる先からユラが治してるんじゃないだろうか。さっきの黒いのは火傷とは別の様なので、一つの魔法を使いながらもう一つ魔法を唱えたということでは。


 サツキはユラを見た。目は真っ直ぐにファイヤーゴーストの火種を見ている。その集中力。


 サツキもファイヤーゴーストに視線を戻した。ユラがこんなに痛い思いをしながら頑張ってるのに、サツキの注意力散漫で失敗など絶対にさせたくなかった。ユラが持つ瓶は、もう少しで火種に届きそうだ。


 と、ファイヤーゴーストの手がピクリと動いた。サツキは急いで呪文を唱える。


「フリーズ!」


 またモンスターの動きが止まったが、ユラの動きがおかしい。繋ぐ手に力がないというか。


 隣のユラを確認する。


 すると、ユラの腕は二の腕まで黒い痣に覆われ、ユラが放心していた。

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