第390話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの作戦会議
ダンジョンの入り口は赤壁の先にあった。少し崩れかけた階段が下に続いており、その先には赤い光がちらついて見えた。
「ユラ、アール。前回来た時と比べて何か変化はある?」
ようやく落ち着いたウルスラが、二人を振り返り尋ねた。
ユラはシンプルにひと言。
「暑い」
「……そう。アールは?」
アールが、珍しく真剣な顔をして言った。
「暑いな」
「あんた達ね……」
ウルスラが、額を押さえて溜息をついた。二人とも、ふざけていると思ってしまったのだろう。だがサツキは先程のユラの言葉を覚えていた。思ったよりも暑い、そう言っていたのだ。
「ウルスラ。多分二人とも、前回来た時よりも体感温度が上がってるって言いたいんじゃないかな」
「え? あんた達、本当?」
ウルスラの言葉に、アールは頷いた。ユラは顎に手を当てて考え込んでいる。すると、おもむろに口を開いた。
「前回来たのは三年前位だけど、その時はこの場所はこんなに暑くなかった。下に行くにつれて暑くなったんだよ。これ、このまま進んだら拙いかもしれないぞ」
「全体的に温度が上がってるかもしれないってことか?」
珍しくアールがまともなことを聞いてきた。これはさすがに馬鹿にし過ぎだろうか。ユラが真面目な顔のまま、アールに向かって頷き、その後サツキを見た。何だろう。
「サツキがブリーザラーの魔法をかけ続けないと先に進めないかもしれないぞ」
「え!? それって余程魔力がある魔術師じゃないと対応出来ないじゃないの! 中級の範囲を超えてるわよ!」
ウルスラがそう言った。呪文を掛け続ける? ブリーザラーというのは、夏の暑い日にマグノリアが掛け続け魔力が尽き果てそうになり、あのスライム風呂を生み出すきっかけとなった呪文だ。
サツキは焦った。
「ちょっと待って、じゃあ寝れないじゃない私」
「バリアーラで膜を作って、その中にアイスナで氷を作って置くとかすれば何とかなるとは思うけど」
アイスナ。昨日ユラに教わった中級魔法の中にあったやつだ。初級魔法アイスは氷の単体攻撃だが、アイスナは中級魔法の氷の全体攻撃だった筈だ。
ユラが続ける。
「バリアーラは俺の方が効果が強く出るから、俺が唱えた方がいいな。サツキの魔力量は多いから持つとは思うけど、戦闘でバンバン魔法を使いまくるのは危険だ」
そう言ってサツキを見つめた。
「魔力回復を俺がやる。それなら先に進めるとは思うけど、戦力にはならない。ウルスラ、どうする?」
ウルスラが腕組みをして考え込んだ。
「中級ダンジョンじゃなくなってる、つまり上級ダンジョン……報酬……」
何を考え込んでいるのか、それで分かった。ウルスラは大きく一つ頷くと、結論を出した。
「火龍草の花の種の採取と、ファイヤーゴーストの火種の採取を優先して、揃ったら、アールは最下層一歩手前まで行ったことがあると言っていたから、そこまで飛んで一気に済ます。最短で行きましょう」
「了解」
ユラが言った。ここにも金に困ってる人がいた。
「じゃあ前衛はウルスラとアールな。ブリーザラーは耐えられるまでは温存な」
「うん、分かった」
話はまとまった。
「いくわよ!」
ウルスラが気合いを入れ、一行はフレイのダンジョンに足を踏み入れたのだった。
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