第388話 OLサツキの上級編、いざフレイのダンジョンへ

 フルールを唱えて辿り着いた場所は、周りに赤い壁が聳え、地面からは白い煙が吹き上る、どう見ても火山地帯だった。


 そして暑い。


「思ったよりもあっちーな」


 ユラが、法衣の下に着ていたシャツを脱ぎ始めた。うおう、腹筋割れてるんですけど。まあリアムも割れてるけど、何というか鮮度が違うというか、ユラの肌は若かった。


 筋トレ、ちゃんとやろう。サツキは心の中で誓った。


 鞄の中を漁り、タンクトップを取り出して着、法衣の前を開けた状態で鞄を背負い直した。


「あ! それ涼しくなるやつだろ!」


 アールが羨ましそうに言った。ユラがふふん、という顔をする。


「そう。昨日サツキと防具屋に行った時発見してさ、買っちまった。金ねえのにさ、はは」

「そんなの買ってたっけ?」

「お前と一緒に買うとお前に払わせることになるだろうが」


 男前なことを言っているが、リュシカの追加鑑定料をユラの分まで払ったのはサツキである。敢えてもう触れないが。


「それって涼しいの?」

「触ってみろよ」


 ユラが法衣の前を、ん、と開けて待っているので、サツキは遠慮なく触ってみることにした。シャツからは冷気が発せられている様で、触れる前から何となくひんやりとしている。


 そっと触れてみると、かなり冷たかった。熱が出た時におでことかに貼るあの水色のやつ位冷たい。


 サツキは率直な意見を述べた。


「冷えてお腹壊しそう」

「身も蓋もないことを言うなよ。高かったのに」

「お腹は大事だよ」


 すると、ユラはニヤリとしてサツキの耳元で囁いた。


「俺の心配してくれてるのか?」


 途端、ウルスラの苛々した声が飛んできた。


「そこの二人! 近い! 暑苦しい! 特にユラ!」

「自分がやらかしたからって俺に当たるなよ」


 ウルスラが頭を掻きむしった。


「ああああ!! むかつくうううっ!!」

「さっさと行こうぜ」


 ユラは見事なスルー技術を見せつけた。


 そういえば、先程からアールが静かだ。いつもはひたすら煩いのに。


 サツキがアールを探すと、須藤さんと一緒に静かに立って待っていた。薄らと微笑んでいるその表情は、見覚えがあった。


 ベッドの上で女の姿から急いでリアムの姿に戻ろうとした時、サツキの手を握って戻らないでと懇願された。ずっと見ていたいと、あの熱い目をして言われた。


 その視線の先には、ウルスラがいた。


 これは拙いのではないか。アールを好きなユラに、ウルスラに熱い視線を送るアール。もしウルスラとアールが付き合ったりしたら、その喪失にユラは耐えられるんだろうか。そうしたら、このパーティーは一体どうなってしまうんだろう。最悪、解散なんてことも考えられる。


 そうしたら、サツキの居場所がなくなってしまう。


 でも、と同時に思う。


 ユラが失恋したら、もしかして振り向いてくれるんじゃ。


 咄嗟に思いついたそのあまりにも卑怯な考えに、サツキは頬を思い切り両手で叩いた。


「どうしたどうした、いきなり」


 ユラが驚いてサツキを見て、はっとした。


「……なんて顔してんだよ」

「何のこと」


 顔は平静を装った。


「だってお前……」

「気の所為じゃない」


 サツキが必死で誤魔化していると、ウルスラが苛々した口調で言った。


「ほらまた! いいからもう行くわよ!」


 サツキには、それは救いの声に聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る