第386話 OLサツキの上級編、荒れるウルスラ

 顔を真っ赤にして震えながら立ち上がって三人の視線を集めているウルスラは、半泣きだった。


「あれは! 雰囲気に呑まれただけよ!」


 きっぱりと言い切った。するとアールが反論する。


「よく言うぜ。あれウルスラだってしたがってたじゃないか」

「したがってない!」


 とうとうウルスラとアールが喧嘩を始めてしまった。サツキはおろおろとするが、ユラはどこ吹く風だ。アールがよりによってパーティーメンバーのウルスラといい感じになりそうだっていうのに、気にならないんだろうか。


 あ、でもいい感じな雰囲気ではない。喧嘩をしているから。だからユラは安心して見ていられるんだろうか。


 考えてみれば、ドラゴン討伐が終わった後だってユラは平然とした顔をして女達に囲まれるアールの隣にいた。それだけ自分に絶対的な自信があるんだろうか。


 なんせ、追いかけて追い詰めて逃さないだもんな……。


 サツキが遠い目をしてユラを見ると、ユラが首を傾げた。


「また何か変なこと考えてねえか?」

「だから何で分かるの」

「考えてたんだな」

「否めない」

「全く」


 呆れた様に笑うユラを見て、可愛いな、と思う自分は重症なんだろう。


「さてと」


 ユラが膝に手を付いて立ち上がると、アールとウルスラの間を行ったり来たりしている須藤さんを捕まえた。あ、あれをやるつもりだ。


 ユラが須藤さんをテーブルの真ん中に置く。


「よし! やれ!」


 ユラが命令すると、須藤さんの目に力が篭った。ミニ怪獣のやる気。可愛くない筈がない。


 須藤さんがぴょんぴょんとその場で跳ねた後、くるんと宙で一回転を決めてみせた。横でラムが拍手をしている。


 キラキラ、と緑の光が降ってきた。須藤さんの状態異常解除付きヒールライトだ。


 すると、今にも掴み合いの喧嘩に発展しそうだった二人が、はた、と気付いた様に止まった。


 よかった。二人が掴み合いの喧嘩になったら、まあ間違いなくウルスラが勝つ。順位をはっきりさせてしまうと、さすがのアールでも凹みそうだったから、よかった。


 ユラが言った。


「行くぞ」


 配慮もくそもないその言い方がいかにもユラらしくて、サツキは思わず笑った。それを見てユラも笑う。ついでにラムも笑った。


 そんな三人を見て、ウルスラがまた疑わしそうな目で見た。


「なあんかあんた達、やっぱり心の距離が近くなったっていうかなんかサツキが気を許したっていうか……ユラの癖に」

「最後の台詞が余計なんだよ」


 ユラがそう言うと、サツキの手を握った。一瞬「え?」と思ったけど、これはあれだ、フルール移動の呪文を唱えろということだろう。


 動揺してしまった自分が少し恥ずかしかった。


 ラムが足にしがみつく。ユラとアールが手を繋ぎ、間に須藤さんを挟んでウルスラも手を繋いだ。


 ユラが耳元で囁いた。


「物欲しそうな顔してるぞ」

「……ばっ!!」


 ニヤリと笑うユラが顔を離した。全くこの人は。サツキは心の中でのの字を描き呑み込みつつ、唱えた。


「フルール! フレイのダンジョン!」

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