第361話 魔術師リアムの中級編五日目の夕飯へ

 中居さんがテーブルの上に次から次へと大量の料理を運んできた。物凄い量である。


「お飲み物は如何致しますか?」


 そう言うと、祐介にメニューを手渡した。テーブルを挟んで座る祐介が、にこやかにリアムに尋ねる。


「サツキちゃん、少しだけ飲む?」


 リアムは頷いた。正直なところ、体調にやや不安があったが、でも折角の飲める機会である。少量に留めておけば、問題はないだろうと思った。


「じゃあ、瓶ビールをグラス二つでお願いします」

「畏まりました、すぐにお持ち致しますね」


 中居さんはそう言うと、ささっと部屋を出て行った。鉄板からは湯気が立ち上り、美味しそうである。あまりにもざーっと説明されてしまった為、どの料理が何だか分からないが、一つ一つ祐介とこれは何だと話しながら食すのもまた一興であろう。


「じゃあ食べよっか」

「ああ」

「いただきます」

「いただきます」


 祐介が手を合わせて言うこの仕草にも、大分見慣れた。リアムの世界では「いただきます」なる文化はないので始めは戸惑ったが、礼節に厳しい祐介を見ている内に、リアムも自然とやるようになった。決して強制はされていない。それが祐介の懐の深さを表している気がした。


 これは何だ、クラゲだよ、などと会話をしながら食事を進めていると、中居さんが再び現れた。


「お待たせ致しました」


 そう言うと、グラスにビールを注ぎ始めた。琥珀色のいい色の液体が、白いふわふわの泡を立てている。体調に不安はあったが、美味そうだと思えたのならば問題ないのではないか。リアムはそう思った。


 祐介がグラスを持ち、にっこりと笑う。


「乾杯」


 二人グラスを軽く合わせると、ビールを口に含んだ。互いに、先程のことには触れぬままだ。寂しさを紛らわす為とはいえ、この様な中途半端な存在のリアムに口づけをしようとしたことを、祐介はもしかしたら悔いているのかもしれない。


 ならばそのままでいい。リアムはそう思った。


「サツキちゃん、さっきの話の続きしてよ」


 祐介が、鉄板のすき焼きなるものをはふはふ食しつつ言った。祐介よ、お前は猫舌ではなかったのか。普通に熱いものを食しているではないか。そう思ったが、触れずにおいた。


「どこまで話したのだったか?」

「お師匠さんが村にやってきたところまで」


 そうだった。リアムもすき焼きを食べつつ、再び語り始めた。


「村のあちこちが溶けている現象を探った師は、すぐにそれが魔力によるものと分かったそうだ。だが現れ方は不規則でな、一体誰が魔法を使っているのか分からない。そこで師匠は村の者を村にあった大岩の前に呼び出しては、それを溶かせるかを試させたのだ」


 リアムはビールを一口くちに含んだ。いつもより、少し美味いと思わないのは種類が違うビールだからであろうか。


「大岩ってどれ位の大きさだったの?」


 祐介が尋ねる。


「直径が大人の男性一人分位の物だったと思う。師と同じ位の大きさだな、と思った記憶が微かにあるからな」

「なかなか大きいね」

「そうだな。――そして、師は始めから対象を子供に絞っていた。魔力の制御が出来ないのは大抵は子供だそうで、周りにきちんと教えられる者がいないと大事になることもあるそうだ」


 リアムが言った。

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