第348話 OLサツキの中級編四日目、仕込みの続き
こいつは一体何を考えて今こんなことをしているんだろうか。
腰に回されている手でユラに引き寄せられている上に、もう片方の手がサツキの後頭部をがっしりと掴んで離さない。
「んー!!」
せめて口だけでも逃げようと努力するが、うまくいかない。逃げようにも、ユラがどんどん追ってきて掴まってしまうのだ。
ぷは、とユラが口を離すと、のうのうとのたまった。
「サツキ、まだ固いんだよな。力抜いてよ」
「いやいやいや、そういう問題ではなくてね!」
「胸触るぞ」
「……力、抜きます」
「ははっ」
触るも何もぎゅっと押し付けられているのでほぼ触っている様なものだと思うのだが、ユラが言う触るというのは指を突っ込むということに違いない。それはさすがに勘弁して欲しかった。
ユラの顔がまたゼロ距離になると、今度は先程までの強引なものではなく、優しいものに変わった。しかし力を抜けと言われても、と思っていると、ユラが腰に回していた手を脇の下まで上げ、くすぐり始めた。
「うひゃっちょっと!」
「まだ固い」
力を抜く、それすなわちユラを受け入れる気持ちになれということだ。でなければ無理な芸当である。そしてユラはサツキが受け入れるのを待っている。多分、受け入れない限りこれは終わらない。
サツキは最大限の努力で、力を極力抜いた。これでもういいですか。恥ずかしすぎて泣きたかった。いやキス自体は正直悪くないというかあれなんですが、それよりも羞恥が。
「泣くなよ?」
泣かせる様なことをしておいて、そういうことを言うのだ、この男は。
サツキが精一杯の抵抗のつもりで睨みつけると、顔を離したユラがまた薄っすらと笑い、今度は耳たぶを口に含んだ。
「ちょおっと待った! それはちょっと! ユラ!」
思い切り抵抗をするも、もうすでに足はがくがくな上に、耳はやばかった。ゾクッとしてもう蛇に睨まれた蛙の様に動けやしない。
「お願い、もう勘弁して……」
半泣きの弱々しい声が出ると、ようやくユラが顔を上げた。サツキを見下ろすその表情は、どういった表情なんだろうか。
「……どうしたら」
「え?」
「はあ……」
「え? 何?」
「何でもねえ。言っても多分サツキには伝わらねえよ」
「え? どういうこと?」
「少しだけ」
「え?」
ユラがサツキの身体を包み込むように抱き寄せた。先程までの荒々しさはもうどこにもなく、まるで縋り付く子供の様なその弱々しさに、サツキは急に罪悪感に襲われた。そして生まれる、庇護欲。こうなるともう駄目だ。結局は許してしまう。
「少しでいいから、抱き締め返してよ」
「……もう何もしない?」
「今はしない」
今限定の返事が返ってきたが、ユラも寂しいのかもしれない。これは多分人肌が恋しいというやつだろう。大きい身体のユラが小さな子供の様に見えてきてしまい、サツキは腕をユラの背中に回してみる。
ユラの安心した様な吐息を頭の後ろで聞くと、こんなサツキでもユラに与えられるものがあったのだ、と思い。
少し嬉しくなった。
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