第347話 魔術師リアムの中級編五日目、露天風呂
リアムと祐介は、先程中居さんから説明を受けた大浴場や貸し切り露天風呂がある場所へと移動していた。廊下を抜け、入り口の広間を通り抜け、矢印の方に進むと、暖簾に女、男とそれぞれ書かれた入り口があった。
すると、丁度そこに先程の中居さんが通りがかった。
「山岸様、貸切露天風呂はこの奥ですよ。ご案内しますので、さ、どうぞ」
「あ、その、ええと」
「一番奥なんでちょっと分かりにくいですよねえ。すみませんねえ。さあさあ」
中居さんはリアム達の前をどんどん進むと、一番奥にあった貸切露天風呂の戸をわざわざ開けてみせ、にっこりと笑った。
笑顔の圧。これはもう断れないやつだった。祐介も同じだったのだろう、口がぎゅっと引き締められたかと思うと、覚悟を決めたのか「ありがとうございます」と中居さんに言うと中へと入って行った。
「こちらの札は使用中にしておきますので、出られた際はまたひっくり返しておいて下さい」
「あ、分かりました」
祐介とリアムが中に入ると、中居さんがパタンと戸を閉めていった。中に入ると、木の板が置かれており、その上で着衣着脱をするらしく、その向かいにカゴが並べられていた。全体的に黒っぽい石で出来た四角い岩風呂で、こじんまりとしているが、二人で入るには十分な広さだ。その奥には洗い場もあり、シャンプーや石鹸なども備え付けられていた。周りはぐるりと目隠しに柵が立てられ、上から差す明かりはまだ明るい。
「いや、あの、ごめんサツキちゃん」
祐介がもごもごと謝った。あの場合は仕方ないだろう。かなりの圧があり、リアムとて抵抗など一切出来なかったのだから、それについて祐介を責めるのはお門違いというものである。
「いや、断れる雰囲気ではなかったのは理解しておるから、祐介の所為ではない」
「いやあ、心付けを渡したのがこうなったんじゃないかと……」
「成程」
それはあり得る。まあリアムと祐介が普通の恋人同士だったのであれば、これはむしろ有り難い行動ではあろう。問題は、リアムと祐介が普通の恋人同士ではない、ということにある。
リアムは湯船を眺めつつ、言った。
「まあここまで来てしまったのだ、入っていこう」
「え、入るの?」
「互いに見なければまあ問題ないのではないか?」
本当は全然平気ではないのだが、リアムは平然を装って言った。いつまでもここに突っ立っている訳にもいくまい。
「幸い、私は今日はまだあと三回魔法が使える」
「いい魔法があるの?」
祐介は明らかにそわそわしている。そう考えると、もてる癖に随分と初心な奴である。女性経験はそれなりにあるのじゃなかったのか。
「ある。目隠しの魔法だ。場所に固定させるので、洗い場と、あとは湯船に掛ければ見え辛くなると思う」
「それいいね! じゃあやってみてくれる?」
「任せろ。まあサツキの魔力なので薄いかもしれないが、ないよりはマシだろう」
リアムはそう言うと、洗い場と湯船の間に立ち、「ブラインド!」と唱えた。もわもわもわ、と灰色のもやが生まれ、リアムの世界で唱えるよりは大分透けてはいるが、それでも見にくくなった。湯船の上にも魔法を掛ける。
「よし! 入るか!」
「はい」
祐介が答えた。
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