第320話 OLサツキの中級編四日目のウルスラの春祭り奮闘記

 ようやく場が落ち着いたところで、ウルスラが春祭りにあったことを語り出した。


「初日はまだよかったのよ、初日は。まだ独り者が街に溢れ返ってたし、わざわざ女子寮に忍び込んで何かしてやろうなんて輩は現れなかった訳。だけど二日目からなあんか怪しい奴らが寮の周りを彷徨きだしてね」


 二日目の夜というと、サツキとユラとラムの三人で夏祭りに出かけた日だ。そういえば初日に出来上がった人達が多いとか何とかユラが遠慮なく説明していた覚えがある。そしてあれだ、黒い服のシーフの男がまた彷徨いていた日でもある。


 唐突にユラとの濃いキスを思い出してしまい、サツキは咄嗟に目を伏せた。眉間に皺を寄せるんだサツキ。そうすればリアムなら考え込んでいる様にきっと見える。


「二日目の夜は、探ってる感じだけで終わったのよね。侵入しようとした形跡も若干あったけど、魔術師候補の寮生の子がバリアーラを掛けておいてくれて助かったわー」


 ウルスラが話を続けていると、うつむき加減のサツキの足に何かが当たった。え? と思ってちらっとテーブルの足を見てみると、ユラが軽く蹴っていた。コンコン、とまるで自分を見ろと言っている様に。物凄く嫌な予感しかしなかったが、サツキは恐る恐る顔を上げた。アールは母親の教えを守っているのか、ウルスラに向き直ってうんうんと話を聞いている。ウルスラはそんなアールに向かって話す様な形になっていた。


 最後にユラをちらりと見ると、がっつり目が合った。ユラは極々小さな声でこう言った。「顔、赤いぞ」と。


 サツキは顔をまた下げた。暫く顔を上げられそうになかった。ユラの顔を見たら、あの日のことをまざまざと思い出してしまったのだ。ああ、もう。


「で、問題は三日目。粒ぞろいのうちの寮生達は皆眠れぬ夜を過ごしてた訳よ。まあ半分位は初日に遊びに行ったっきり帰って来ないし、残ったのは殆どがまだ祭りに参加するのが怖い初心な子達だけでね、戦力になるかっていうと微妙だった代わりにひたすら守りを強化してみたのよ」


 ウルスラの話によると、例の魔術師候補以外にも魔法を使える子がちらほらいたらしく、あちこちに防御魔法とトラップを掛けておいたらしい。


「そうしたら、一匹引っかかったのが黒ずくめの男で、何かお腹を怪我してるんだか結構簡単に捕まったのよねー」


 お腹を怪我した黒ずくめの男。サツキはちらりとユラを見た。ユラがにやりと笑い返した。多分、あのシーフだ。三日目も諦めなかったとはなかなかに執念深い男である。


「で、皆で取り押さえて裏の木に吊るそうってやってたら、一人が縄を掴んでた手を離しちゃって、足からぶら下げられてたその男の頭が私の腰に激突し」

「お前味方にやられたのか。だっせーの」


 ユラが言うと、ウルスラは見事に無視をしてそのままアールに話し続けた。おお、ウルスラも成長している。


「男は無事捕まり、私は昨日から腰痛。以上」


 ウルスラの話が終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る