第311話 魔術師リアムの中級編五日目の朝食前の支度へ
祐介は今日は朝マックに行くつもりだったことを潮崎に話すと、全員身支度を整えてから後ほど現地集合することになった。特に祐介は血だらけだ。念入りに洗う必要がありそうだった。
潮崎と木佐ちゃんが二階へと戻って行った後、リアムは祐介を見上げながら言った。
「なあ祐介、風呂はうちで入っていかないか?」
「なになに突然」
祐介がぎょっとした。リアムは祐介を逃さぬよう、服の前を掴んだ。
「私は心配なんだ」
「何が」
「祐介が一人で外に出たら、また羽田が突然殴り掛かるのではないかと。風呂に入っていると音に気付かないかもしれない。もし羽田が何か凶器を持っていたらどうするんだ」
「サツキちゃん……」
「頼む、服を持って来て、うちで風呂に入ってくれ。一人にならないと約束してくれないか」
リアムは懇願した。こんな風に誰かに心底懇願したことなど、これまであっただろうか。そんな自分が周りからどう見られようが、どうでもよかった。祐介を失うかもしれない、その恐怖が何よりも勝った。
「何だったら、背中も流してやる」
「いやそれは結構です」
「なに遠慮するな。私はうまいぞ。今なら髪も洗ってやる」
「特典みたいに言われても、いやさすがにそれはちょっと」
「ちょっと?」
戦いが終わった男の背中を流してやるのは、戦士同士のお疲れの挨拶の様なものであったが。
「サツキちゃんさ、僕のことあんまり男だと思ってないよね?」
ボソリと祐介が言った。
「何を言っている。男としてではなく人間として見てみたらと言ったのは祐介であろうが」
「いやまあそうなんだけど……」
「血もあちこちにこびりついているからな、拭いてやろう」
「自分でやるから」
「遠慮するな」
「僕が恥ずかしいの!」
祐介が照れくさそうにぶすっとして言った。
「……僕一人で裸になって見られるのは、まだちょっと」
まだ、ということはいずれ見せる気でいるのだろうか。そんな疑問がふと湧いたが、ここで尋ねては祐介の機嫌を更に損ねることになりそうだったので控えることにした。
「分かった。でも、とにかく私の家に来てくれ。頼む」
「それは分かった、サツキちゃんのことが心配だった僕もずっと同じ気持ちだったから」
そう言われ、ようやくリアムは祐介に対し随分な態度を取っていたことに気が付いた。つい忘れて一人で外に出ようとしては止められていた。だが祐介はずっと今のリアムと同じ気持ちを抱えていたのだ。これはきつい。非常にきつかった。
「祐介、済まなかった……こんなにも辛いものだとは分からなかったのだ」
すると、祐介がピクリと反応した。
「サツキちゃん、今辛いの?」
リアムは素直に頷いた。
「心配だし辛いし、祐介を一人にしたくないと思っている」
リアムがそう言った直後、リアムは祐介の胸の中にいた。ちょっと苦しい位きつく抱き締められている。
でも、この温かさが祐介が無事だった証でもある。
リアムも腕を祐介の背中に回すと、出来る限りぎゅっと抱き締め返したのだった。
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