第306話 OLサツキの中級編四日目、ようやく来た剣士
先程からユラの距離があり得ない程近い。いやまあここ三日間は考えてみたら大分、いやかなり近いのだが、このいつアールが来るか分からない状況で、果たしてこんなにもくっついていていいのか。
それにそろそろ心臓がやばい。
すると、至近距離のユラが囁いた。
「サツキ、さっきからすっごいドキドキしてない? もしかして俺のこと」
「免疫がない所為だから」
「つれねえなあ」
ああ、もう腹が立つ。この人はこうやってサツキを振り回す。サツキに対してすらこうなのだ。好きな相手のアールにはどんな態度を取っているのか、改めて観察してみたいと思った。
確か、追いかけて追い詰めて逃げられない様にする、とアールがユラのことを語っていた。文字にするとなかなかに酷いが、ユラ程のイケメンがぐいぐいいったら、大抵の人は落とされるんじゃないか。
どういった追い詰め方をするんだろう。少しだけ興味が湧いた。やはり観察してみよう。傍から見ている分にはBLも楽しそうだし。アイドルの応援は出来なくなってしまったが、代わりにパーティーにはイケメンが二人もいる。愛でて楽しむという意味では、これ以上ない組み合わせの二人かもしれなかった。
サツキが言った。
「ほら、そろそろアール達が来るかもよ」
「まだ来てないし」
「そろそろ首痛いし」
一所懸命ユラに対抗すべく力を入れ続けているので、正直首が疲れてきていた。途端、ユラがムッとした顔になった。
「首が痛くなるのはサツキが抵抗して身体を預けてくれないからだろ」
「だからね、ギルドで堂々と身体を預けるとかないよね? 言ってることおかしいからね?」
ユラの口が尖っていく。
「いいじゃねえか別に」
「いやよくないし」
はあ、とわざとらしい溜息をついて、ユラが仰々しく腕を外した。そして入り口の方をチラリと見て、
「あ、ウルスラ」
と言った。ようやく来たのか。サツキが入り口の方をみたその瞬間、ユラがニヤッとしたのが一瞬目に入り。
「騙されてやんの」
そう言うと、一瞬でサツキの下唇を軽く唇で噛んで、離れた。
「は?」
ウルスラはいない。誰もいない。ジュリアンはぼうっとドアを見つめている。訳が分からない。
すると、ユラがサツキの顎に手を当てた。
「お前って本当騙されやすいよな。素直なのはいいけどさ、見てて怖いんだよな」
「いや、ていうかそもそも騙さないでよ」
からかったり、騙したり。いくらユラの性格に多少歪みがあるからといって、ちょっといい加減にしてほしい。
すると、ユラがきっぱりと言った。
「仕方ないだろ。サツキの反応が楽し過ぎるんだから」
「それ、何か私の所為みたいになってない?」
「サツキ、これがきっと相性ってやつだよ。ほら、魔術師と僧侶は切っても切れない仲だし、同じパーティーにいる以上はうまくやっていきたいし、そこにきて俺の趣味嗜好とサツキの騙されやすさが絶妙に噛み合っている感じだな」
だな、じゃない。
すると、入り口から救世主の声がした。
「おーい! おはよー!」
アールが手を振っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます