第293話 魔術師リアムの中級編四日目、心の穴を埋める者
食を進めている内に、段々と頭はしゃっきりとしてきた。だが、どうにも身体が重い。
『羽田と早川ユメを何とか麗子さんにばれないまま何とかしようぜ作戦』という何とも言えないプロジェクト名を付けたツンツン頭の佐川は、プロジェクトリーダーに橋本を任命した。何故お前が勝手に任命しているんだと田端に突っ込まれていたが、てへ、と笑って誤魔化していたのはさすがと言うべきか。
ひと通り食べ尽くしたリアムだったが、身体が重くて仕方がないので、悪いとは思ったが祐介の左脇にもたれかからせてもらった。祐介が隣の席の佐川と話すと、耳が触れている祐介の胸から振動と共にくぐもった祐介の声が響いてきて、安心した。
リアムは思う。いつの間にこんなにも祐介がいると安心する様になったのか。先程久住社長に足を押し付けられただけでリアムの全身を悪寒が襲ったが、祐介にはそれがない。むしろほっとして、ずっとこうしていたいがそうしたら自分が駄目人間になりそうでそれが怖い。
祐介という人間が好きなのだ、唐突にそれが分かった。
以前祐介が提案したことを思い出していた。祐介を、男としてではなく人間の祐介という一個人として好きになる練習をしたら、と言われた。あれはリアムがいずれ伴侶を望むのであれば、更に子も持ちたいのであれば、相手が男性でなければならないことに抵抗を覚えたことからの話だったか。
正直、家族は欲しい。リアムの世界ではそれは叶わなかったが、幼い時分に親元を去ることになったリアムにとって、離れ離れになることがない家族が理想の未来だった。
師がリアムを非常に可愛がってくれていたことも勿論分かっているし、引き取ってもらえたことには非常に感謝している。
ただ、あの人は保護者というよりは友だった。歳の離れた兄貴分、だろうか。いつも突拍子もないことをやってリアムに怒られても、それを笑って軽く謝罪し、次の日にはまた新たな実験を考え出す。
滅茶苦茶で、いなくなるなんて信じられなくて、冒険から帰ってからソファーでぐったりしているのを見ても寝ているのだと思った。大分高齢だったが、あの人が死ぬ訳はないと信じ込んでいた。
肩を揺すって、落ちた手。それを上から握った時に、リアムは悟った。師がもうそこにいないことに。
あの人は、家族ではない。だが、リアムの心を大きく占めるとても大事な存在だった。
心にポッカリと穴が空いた。それからは、その心の穴を何とか埋めたくて、でも埋まる訳もないと思っていたのに。
いつの間にか、まだ会って間もない祐介が埋めていた。
リアムは、それに正に今気付いたのだった。
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