第276話 OLサツキの中級編三日目夜の距離感
もっと気を許してほしいと言われても。
「ユラも可愛いって思われたいの?」
「違う」
即否定された。そして相変わらずきつく抱き締められている。前はラムに、後ろはユラに。あの曲じゃないけど優しさに包まれている様で全く悪くないけど、まあイケメンに抱き締められてドキドキしないと言ったら嘘だ。距離が異様に近いし。
ただ、おっさんのリアムの姿だからまあ色気なんて皆無だろうが。
ふう、とユラが吐く少し酒臭い息が頬にかかり、温かくて何だかくすぐったい。
「そうじゃなくて、何ていうか、サツキにはすっごい距離を置かれてる気がするんだよ」
「距離? そんなことないよ」
だって未だかつてここまで距離が近い男性はいたことがない。
「今も十分近いと思うし」
なんせぴったりくっついている。
「いや、そういう意味じゃなくて」
「どういう意味?」
「心の距離が」
「何かユラは難しいこと言うね」
「いや、これ難しいか?」
ユラが軽くつっこみを入れた後、また暫く無言になった。どうも意思の疎通がうまくいっていない気がするが、これはどうもユラの言い方の問題というよりもサツキの理解不足の所為な気がしてならない。というかそもそも心の距離ってなんだろうか。
「ユラ、私ね、ウルスラに会うまでは、ちゃんとした友達って呼べる人がいたことがないんだ」
「友達ねえ。俺もろくにいなかったけど」
「ユラは自分で作らなさそうな印象だけど、私の場合は何ていうか、友達じゃなくて舎弟?」
「舎弟」
「隣にいる彼女を褒める役目」
「それは友達じゃねえだろ」
「だから友達じゃないんだってば」
ふうん、とユラが呟く。
「で、男もいなかったんだろ?」
「言い方」
「好きな奴はいたことあるのか?」
「子供の時はあったけど、大人になってから、ていうか胸が大きくなってからはないかな」
「いい胸してるのに」
「それ褒めてる?」
「勿論」
そういえば、初めて中身が女だったことを言った時も、胸の谷間に指を突っ込みたいと言っていた。実際に女になってから指を突っ込まれてはいないので、あれは今思えばユラなりの冗談だったのかもしれないが、それにしても随分な発言だ。
「だから心の距離の意味が分かんないのか? ラムには凄い気を許してるのに」
気を許すはまだ意味が分かりやすい。要は警戒をしていないということだ。
「だってラムちゃん可愛いもん」
「だってって、一応モンスターだぞ?」
「テイムされたモンスターでしょ?」
「テイムしたのはアールだぞ」
「えっラムちゃん、もしかして本当はアールの元に戻りたかったり……?」
サツキが悲しくなりそう尋ねると、ラムが大慌てで首を横に振ったかと思うと、サツキと一緒に巻かれているユラの腕を引き剥がしに掛かる。そして引き剥がすと、びっくり顔のユラをそのまま後ろにドン! と突き飛ばした。
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