第272話 OLサツキの中級編三日目夜の皆からのハグ
ラムをぎゅっとしてラムにぎゅっとされている内に、段々と恐怖が薄れてきた。
あの、どこかに帰りたいという強烈な想いも消えた。
白昼夢の様に、一瞬で現れて余韻だけ残して、消えた。
サツキはふう、と息を吐いた。すると、背後から視線を感じたので振り返ると、書斎の入り口にユラが立ってこちらを見ていた。その顔はあまりにも悲しそうで、サツキは自分が何かやってしまっただろうかと思い起こすが、特にユラに何かやってしまったということは思い当たらない。ラムとハグをした位だが、別にユラはラムが大好きという訳ではなさそうだし、何だろう。
わざわざ拭いてくれたのに、お礼をまだ言ってない。それかもしれない。
「ユラ、ごめん! 拭いてくれたのにお礼をまだ言ってなくてっそのっ」
「なあサツキ」
「あのユラ、ありがとう!」
「サツキ」
「違う? これじゃなかった? ごめん私、ユラが何に悲しくなったのか分からなくて、その、鈍感だから、ごめんなさい」
「サツキ!!」
サツキは驚いて喋るのを止めた。怒鳴られると、もうどうしていいか分からなくなる。怖い、でも何に怒ってるのか分からない。それを聞こうとしたのに怒られて、どうしたらいいのかもう。
すると、ラムがまたサツキをぎゅっと抱き締めてくれた。途端に張り詰めていた心が緩む。それを見たからか、今度はユラが泣きそうな顔になった。
「ユラ、私、何をした?」
少し落ち着いたサツキは、ユラに尋ねた。何かがっかりさせてしまったのだろうか、そう思いながら。向こうの世界でも駄目、こっちの世界でもまた駄目になっていくのか、結局どこにいっても駄目なサツキは駄目なままなのか。
自嘲気味にそんなことを思っていると、泣きそうな顔のまま、ユラがサツキの背後までやって来た。サツキはラムを抱き締めながら後ろのユラを見上げると。
ユラがいきなり膝をついて、サツキをラムごと後ろから抱き締めた。
「え?」
悲しそうな顔をされて、怒鳴られて、泣きそうな顔をされて、最後には抱き締められて。もうさっぱり訳が分からない。この人は一体サツキにどうしろと言っているんだろうか? サツキが読み取れていないだけで、実は他の人から見たらユラの要求は一目瞭然なのだろうか。
少し苦しくて痛い。でも、さっきはあれだけびくついてしまったのに、何故だろう。こうされることに安心感を覚えている自分がいた。首の前にラムを巻き込んで絡むユラの腕を掴んでみる。始めは右手だけ。そして次に左手も。
そして目を閉じてみた。すると背中が温かく感じて、そうしたら何だか頬だけ寂しく感じてしまい、サツキは首を少し右に傾けてユラの二の腕に頬を寄せた。ほっとした。
「サツキ、怒鳴ってごめん」
ユラが苦しそうな声で囁いた。
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