第261話 魔術師リアムの中級編四日目の飲み会へ

 今日は羽田がいない所為だろうか、心なしか皆晴れやかな表情を見せつつ仕事をしていた。


 これまで会っていなかった松田という男は年齢は三十を少し超えたところで、脂が多いのか額がテカテカしているが、目がくりっとし、愛嬌がある顔をしていてとても明るい。


「あの人が一番稼いでるのよ。あんまり人の話を理解してないっぽいけど、でも元気のよさでカバーしてるって感じかしら」


 木佐ちゃんがこそっと教えてくれた。リアムはアールを思い出した。あいつも人の話を理解していなさそうだったが、とにかく明るく元気だった。


 木佐ちゃんは、今日はパンツスーツを着用している。これまでは毎日スカートを履いていたので珍しいなと思って見ていたら、勘がいい木佐ちゃんはリアムの視線で気が付いたらしい。こちらもこそっと教えてくれた。


「社長ガードよ。スカートだと、前は結構足を触られたりしたから。まあ数年前だしあれだけど。野原さんスカートだから、気を付けなさいよ」

「社長というものは自社の社員の足を触ってもいいものなのか?」

「駄目に決まってるじゃない」

「木佐ちゃん殿と私の常識に相違がなくてよかった」

「あの人の常識には世間とは相違があるけどね」

「うまいな、木佐ちゃん殿」

「そういう時は『座布団持ってきて』って言うのよ」

「ざ、座布団?」

「後で山岸くんに聞いて」

「分かった」


 仕事も大分リアムが理解してきたからだろうか、インボイスなる請求書を見ても商品の想像すら出来ないが、木佐ちゃん曰く、自分も実物を殆ど見てないからそんなものよ、と言われてからは気にしないようにしている。


 メールの書き方も、お手本を木佐ちゃんにもらってからは早くなった。要はどの状況の時にどの文章を組み合わせれば最適なのか、それを状況に寄って判断すればいいのだ。


 分類と構築。魔術師の基本である。


 まだキーボードを叩くスピードは木佐ちゃんにも祐介にも遠く及ばないが、いずれものとしてくれよう。リアムは燃えていた。


 今日は祐介も穏やかで、リアムが時折眠気覚ましに拙い珈琲を入れに行くと、「僕も」と言ってついてくる。まるでテイムされたモンスターの様だと一瞬思ってしまったのは内緒である。


「ねえ、スカートじゃなかった方がいいってさっき木佐さん言ってたよね」


 祐介は不安そうだ。リアムはまだ久住社長とは直接話をしていない。先日エレベーター前で早川ユメといちゃついているのを目撃しただけだ。本当にそんなに堂々と触るのだろうか? だがもし本気で触ってきたら。


「もし触られる様なことがあったら、はっきりと皆の前で宣言しよう」

「サツキちゃん……」

「だから祐介は案ずるな。私に託されたこの任務、全うしてみせる」


 リアムは安心させる為に微笑んでみせたのだった。

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