第156話 OLサツキ、中級編スタート
翌朝、サツキはよく晴れ渡る空の下、ラムと手を繋いでギルドまでの道のりをのんびりと歩いていた。
サツキはルーンのダンジョンに行く日にギルドまでの道を歩いたが、ラムは初めてだ。だから、街の雰囲気を味わってもらおうと、二人で店や景色を楽しみながら行くことにしたのだった。
「実は私も落ち着いて見るのはこれが初めて。……あ、また私って言っちゃった」
てへ、と笑う。リアムの様な渋いイケメンがてへ、などと言って照れている場面は多分誰も見たくはないだろうが、ラムはただにっこりと笑い返してくれるので有り難い。
人間の前に立つと、どう見られるかとかどうなったらいいかとか余計なことばかりが頭に浮かんできてしまい、つい足が止まってしまう。モンスターであるラムの前でだけは本来の自分が出せるのだから、人生何があるか分からないものだ。
やはり自分は人間関係を築くのが苦手なのだろう。そう思う。今はまだ、リアムが築いたそれの跡を辿って何とかやっている状態だ。
くい、とラムが手を引っ張った。サツキを見上げる顔には、可愛い笑顔。思わずサツキの顔がほころぶ。
「なあに?」
ラムは一体何が気になるのだろうか、サツキはラムにただついて行くと、とある店の前に辿り着いた。
「うわあ……!」
そこに並んでいたのは、色とりどりのドレスなどの衣装だった。男物は片隅にある程度だ。どこの世界もお洒落を楽しみたいのは女性の方が圧倒的に多いのだろう。
表の看板を見ると、『貸衣装』とあった。
ラムがひらひらの可愛らしいピンクのドレスの前に立ってぴょんぴょん跳ねる。
「ラムちゃん、これを着てみたいの? うふ、可愛いね、このドレス。私も一度でいいから着てみたかったなあ……」
短大の卒業式ではスーツを着た。父は折角だから袴姿をと言っていたが、自分に不釣り合いな華やかな化粧や髪型に盛られて周りに何と思われるかと思うと、抵抗があって出来なかった。でも本当は着てみたかった。知り合いがいないところで。
すると、ラムが自分の胸の部分をもにょっと掴んで盛り上げた。
「ん?」
そしてサツキを指差す。
「あ、女に変身してってこと? でもなあ、イルミナだと一時間だし、メタモラだと二十四時間だし、他の皆の前であんまり女の姿になるとまたアール辺りがうるさそうだし……」
すると、奥からにこやかに微笑む女性店員が寄ってきた。
「いらっしゃいませ。今夜からの春祭りの衣装をお探し?」
「春祭り……?」
「あら、ご存知ないですか? 春の到来を祝って街中が花だらけになって綺麗なのよ。三日三晩それこそお祭り騒ぎよ」
「へえー」
他の皆は行くのだろうか。後で聞いてみよう。
女性が続ける。
「この期間に知り合った男女はうまくいくっていうジンクスがあって、だから女性はいつも着飾って頑張ってるわよ」
「は、ははは……」
街コンみたいな感じなのか、とちょっと呆れたが。
「この子に着せたいかも。また来ます」
「待ってますよ!」
サツキはペコリと会釈をすると、ギルドに向かったのだった。
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