第131話 魔術師リアム、初級編三日目午後のメイク講座開始へ
リアムが逃げの体勢を取ろうとすると、コホン、と祐介が郁姉に声を掛けた。助けてくれようとしているのだろうか。助かった、祐介。さすがは祐介だ。
「あー、郁姉?」
「何?」
「あのさ、無駄に盛らないでね。メイクしてないと儚そうに見えるからさ、変な奴に付け回されたりしてるからって理由でしゃっきりした感じの顔の作り方を教えてほしいだけだから! 盛らないで、絶対盛らないで!」
違った。そして言っている意味がよく分からない。
「えー、絶対これ滅茶苦茶可愛くなるのにー」
「今でも十分可愛いだろ」
「何それ
「惚気てない。無駄に可愛くし過ぎる必要はないって言ってんの。薄めでいいよ薄めで」
「うっわー独占欲!? あんたが!?」
「そうじゃなくて、すっごい可愛くなったらまた変なの寄ってくるからだよ! いいんだよ、会社用のさっぱりメイクでいいの!」
成程、どうやらメイクというのは化粧のことの様だ。するとどうやら察するに、この二人はどれ程の濃さにするかで揉めているらしい。
「あの、簡単ので……」
口調を気を付けようとすると、どうも弱々しくなる。ああ、苛々する、苛々するぞ! だがリアムの発言に祐介は嬉しそうにこくこくと頷いている。これ以上ストーカーが増えては堪らない、そういうことなのだろう。そして祐介の気苦労が増えるのは是非とも避けたいものだ。
「じゃ、じゃあ、簡単メイクを教えるから、その後、今日だけ盛らせて!」
「わ、分かった」
正直勢いが怖かったので、リアムは承諾することにした。今日だけなら職場にも行かないし、問題ないだろう。祐介をちらりと見ると、仕方なさそうに笑っていた。
「それともう一つ……」
郁姉の距離が近くなる。
「は、はい」
「後でちょっとその胸触らせて」
「は……へ?」
祐介は後ろで額を押さえている。祐介、お前の姉は大丈夫なのか。聞きたかったが、聞けない。
「まだなら、折角だから祐介よりも先に触っちゃっておこうと思って! ふふ!」
「郁姉、ちょっとさ、初対面の子にさ」
祐介はさすがに止めに入っている。当然だろう。言っていることがおかしすぎる。だが、順番で言えば正しくはない。
「祐介は手では触れていないが、胸の上で一晩寝たので触れたという意味では祐介が」
「わあああっっサツキちゃん! 黙ろうか! 姉弟でその話題はさ、恥ずかし過ぎる!」
「胸枕……やってんな、お前」
郁姉がニヤリとした。そしてリアムの肩をポン、と叩き頷いた。
「好き。いい。祐介が女に振り回されてんの初めて見た」
「郁姉っ」
まあ中身は女ではないからな。そう言いたくなったが、止めておいた。
「じゃ、始めようかサツキちゃん」
「頼む……頼みます」
「うん」
そして謎の化粧講座が開始した。
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