第109話 魔術師リアム、初級編二日目の夜は更ける
リアムの喉を、ビールが通過して行った。ぷはっ! というこの爽快感。
「旨い!」
「あー……飲んじゃった」
祐介が深い溜息をついた。
「よいではないか」
「悪代官みたいな言い方止めて」
「あくだいかんとは?」
「説明してあげるから、僕の上からどこうか」
「やだ! どいたらビールを飲んでしまうつもりだろう!」
「……これ僕のなんだけど……」
「飲み終わるまではどかないぞ!」
リアムはグラスを持つ祐介の手を両手で掴み、祐介の胸に思い切り寄りかかり、もう一口。
「全然一口じゃないじゃん」
「私の一口は大きいのだ!」
「のだ! ってさ……あの、飲む時腕に押し付けるの止めてもらえませんか」
「はあー旨い」
「聞いちゃいねえ……」
リアムが後ろの祐介を振り返り見上げる。
「祐介も飲むか?」
「そもそも僕のだし」
「要らないなら私が」
「飲む! 飲むから貸して!」
「全部飲まれたら溜まったものではない。私が飲ます!」
「酔っぱらい……勘弁して……」
「ははは! 楽しいな、祐介!」
すぐ近くの祐介の顔は、赤かった。ぐび、と飲むと喉仏が動く。
「飲み過ぎではないか? 顔が赤いぞ」
「サツキちゃんに言われたくないよ」
「私は強いぞ、問題ない」
「いや、相当酔っ払ってるから。……やっぱり絡み酒だった……」
「祐介は酔った様だから、残りは私がいただこう」
「焦点の合ってない目で言われると怖いんだけど」
「いただきだ!」
リアムは、奪い取る様にして残りを一気に飲み干した。ぽふ、とまた祐介に寄り掛かる。
「全部飲んじゃったよ……サツキちゃん? 飲み終わったし降りない? ちょっとほら、色々拙いし、ね?」
すると、リアムは囁く様な声で祐介を呼んだ。
「祐介……」
「……はい」
ごくり、と祐介は唾を呑んだ。
「うるさい、少し静かにしろ」
「うっわー」
「寝る」
「え? 嘘でしょサツキちゃん、人の上乗ったまま寝ないでさ、今日こそ自分のベッドで寝なよ」
「祐介が連れてってくれ……」
リアムはそれだけ絞り出す様に言うと、目を閉じた。急に辺りが暗く感じ始めた。身体は重いが、ここは温かくてなかなか悪くない。
「……生殺し……」
膝を伸ばし背もたれに寄りかかる祐介の上にちょこんと乗り祐介に思い切りもたれかかったリアムは、祐介のグラスを持った方の腕に両腕を絡ませたまま、すう、と寝てしまった。
「サツキちゃーん? 腕掴まれたままだと動けないよー」
心底困った様子で祐介がリアムに話しかけるが、反応は一切ない。
祐介はふう、と息を吐くと、空いた方の手にグラスを持ち替え、床にグラスを置く。足で毛布をたぐり寄せると、リアムの上に掛けた。
リアムの口に入った髪の毛に気付き、指で取ってやる。
「全く……ようやく僕に懐いてくれたってことかな?」
祐介はくすりと笑うと、リアムを抱えたまま暫く天井を見つめていた。
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