第62話 OLサツキ、初級編は続く

 ルーンのダンジョンの通路の幅は狭い。剣を振り回すことを考えると、横並びはせいぜい二人までだ。


 ウルスラがアールをちら、と見る。


「アールは私と前衛」


 途端、アールが抗議を始めた。


「何でだよ! 折角リアムと狭いダンジョンの通路で距離感を縮めようと思ってたのにさ!」

「あんたのもてない原因の一つは、その脳みそ直結の口の所為だと思うわ」

「それは言えてるな」

「ユラまで!」


 アールが半ば引き摺られる形で前をウルスラと並んで歩き始めた。時折涙目でサツキを振り返る顔がうざい。


 サツキの隣のユラは、腕組みをしたまま切長の瞳を冷たく細めた。


「昨日の失敗は、ほぼアールの所為だと俺は思っているからな」

「何でだよ!」

「喚くなうるさいな。……だって、バトルの部分は殆どお前が話しただろ? 俺は職業が僧侶だから回復専門だ、回復専門だから前衛には出ない。殆どウルスラとリアムのお陰で乗り切ったと言われる様な内容を語ったのは誰だ?」


 ユラは手厳しい。余程根に持っているのだろう。


 前を行くアールの肩が震えた後、右手を渋々上げた。素直は素直だ。馬鹿なだけに。


「俺です……」

「ほらな? 図らずも自分の行動でそれを証明して見せたってことだ」


 ユラがきっぱりと言い切った。そこには仲間への思いやりとか配慮とかいったものは一切感じられなかった。やはり相当怒っているのかもしれない。


「畜生……言い返せねえっ」

「俺はお前よりは呪文唱えられる分頭はいいからな」

「ちょっとユラ、それじゃ魔力ない私がアールと一緒みたいじゃないの」


 ウルスラが抗議する。成程、ウルスラは魔力がない、だから呪文を口にしても今まで何も起きなかったのか。


「ウルスラは呪文は聞いたら結構覚えてるだろ、別物だ」

「ならいっか」

「よくねーよ!」


 アールが嘆くが、誰も相手にしない。放っといていいのかな? と思って隣のユラをチラッと見ると、にっこりと笑いかけられた。条件反射で、つい目を逸らす。


「リアム、俺は男には興味ないからそう警戒しないでよ」

「あ、うん、ごめんね、つい」


 ユラはアールよりはぐいぐい来ないと思ったら、そういう理由だったらしい。ならば安心だ、なんだユラは思っていたよりも大人だしまともじゃない。そう思いホッとしていると。


 ユラがにっこり度を増した笑顔でのたまった。


「あの姿になった時は、付き合ってとは言わないから、ただ谷間に指を挟ませてくれると嬉しいな」

「無理です」


 前言撤回、こいつの方がタチが悪い。サツキの性格なんてどうでもよく、ただ身体を触りたいだけなのを隠しもしない。


 イケメンなんてろくなもんじゃない。サツキは深い深い溜息をついた。

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