第49話 魔術師リアムが知る事実
お茶は煎茶という種類の緑色のなかなかに派手な色のお茶だった。グリーンスライムのお湯割りを思い出す。仄かに香る葉のツンとした香りが、酒を割るのに丁度よく好んで飲んでいた。
「煎茶は、お湯を少し冷ましてから入れるんだよ」
「ほお」
ズズ、と二人で湯呑みの茶を啜る。熱いが渋みが旨い。さっぱりとしていて、先程祐介にもらったお茶とはまた別の風味でよかった。
「私はこちらの方が好みだな」
「甘いのは苦手?」
「正直、あまり好まない」
「実は俺も」
ふふ、と祐介が笑う。二人並んで床に座り、ベッドに背中を預け茶を啜りながら微笑み合う。穏やかな光景である。
「っと違うぞ、話がまだではないか!」
「気付かれたか」
「祐介!」
リアムが怒ると、祐介が渋々、といった雰囲気で話し始めた。
「あー、さっきの人さ、羽田さんていう営業職の人なんだけどさ」
「営業職とは?」
「物を売りに行く人」
「分かった。で?」
「……社長の、あ、社長って会社っていう職場の一番偉い人ね。その人の知り合いだかで会社に入ってきた人で、その所為なのか知らないけど、見た通り偉そうにする訳」
「うむ、そういった人間はどこにでもいる。相手をしないのが一番だろう」
リアムが意見を述べる。祐介は不貞腐れ顔だ。
「僕もそう思うんだけど、ここ最近やけにサツキちゃんに絡む様になってきてさ」
「なんと! サツキの恋人候補か? なんと趣味の悪い」
「違います―。サツキちゃん、嫌がってたよ」
リアムはホッとした。あの弛んだ体型を好む
「それで? サツキはどうしてたのだ?」
「それがさ、サツキちゃんは強く言ってくる人に強く出れないタイプの子だから、どう聞いてもセクハラ発言なのにヘラヘラと笑うだけでさ」
「セクハラとは何だ」
「えーと、女性が嫌がる性的な言葉を言ったり身体に触ったりすること」
「……あれがこの身体に触れたのか……」
「あー、触ったのは肩とかだけど、最近やけに話す時も距離近いし、サツキちゃんが遅くまで残るとわざとらしく残ってたりしてさ」
「成程。では昨日もサツキが帰るまでいたのか」
「そう。だから僕も……あっ」
「あ?」
祐介が頬を赤らめた。どうした、祐介よ。
「言え」
「容赦ないよね……」
コホン、と咳払いをして、祐介は続けた。
「さすがに放っておけなくて、僕も残ってました」
「祐介、お前はいい奴なのだな」
「今更? ここまでしてあげてるのに?」
「続きを言え」
「……全くもう……。家隣だし、同時に同じ方面に帰ってもおかしくないだろうし、最近羽田さんが居る時はそうしてたんだけど、さっきの話だと、奴は今日サツキちゃんちに来た。ドアを覗いてみたら、付いてきて彷徨いてた。多分、同じ部屋に入るか確認したんだと思う」
それは何ともゾッとする話だ。
「ただのセクハラ親父が、ストーカー化してきてるっぽい。正直やばいと思う」
「すとーかー?」
リアムは首を傾げた。
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