第13話 魔術師リアムの飯

 光るパネルにカードを当てると、ピッという音と共に足元の小さな扉が開き、リアムはそこを用心しつつ通り過ぎた。


 何も起きなかった。


 祐介曰く、これは改札といい、金を払わず電車という先程の金属の箱にタダ乗りする不届き者を捕らえるトラップだという。この小さなカード一枚に様々な個人識別情報が入っているらしい。転移魔法陣の個人識別能力と同じ様なものだろうか。


 リアムが振り返って待つ祐介の元に辿り着くと、祐介がまたリアムの手を握った。


 男同士こうも頻繁に手を繋ぐ行為は、帰還時に使用する帰路の道具フルールの羽根の時位にしてもらいたいものだ。


 ここのところはよくウルスラがリアムの手を取ったが、そういえばウルスラは無事にドラゴンを退治出来たのだろうか。


 心配でならなかった。


 リアムは祐介が握る手を引っ張った。


「祐介、離せ」

「ふらついてるでしょ」

「……くっ!」


 確かに祐介の言う通り、この細いヒールの靴には思った以上に苦戦していた。しかも恐らくこれはサイズが合っていないらしく、一歩進む度に踵が浮くのだ。


「ラーメン食べようよ」


 ラーメン。聞き覚えのない単語だ。ラーメニアという花から抽出される媚薬ほれぐすり入手の任務を受けたことがあるが、あれ程触れるのが嫌なターゲットはなかなかなかった。


 恐ろしく臭いのだ。


「……お前は何を狙っている?」


 顔はくたびれ姿勢は悪いが、磨けばそこそこ綺麗になりそうなうら若き女性の身体だ。特に胸の主張が激しい。これだけでも寄ってくるオオカミはいるだろう。現に電車内では視線の的だった。


「えーと、サツキちゃん? ラーメンをまさか知らないなんてこと、ないよね?」

「……ラーメニアという媚薬の材料となる花なら知っているが」

「び、媚薬って」


 祐介はどもった後、少し顔を赤くして咳払いをしてから言った。


「えー、違います」

「では、何だ」

「マジで分かんないの? いや参ったなこれ」


 祐介はもごもごと独り言を喋るのみで、肝心のことを一向に言わない。


「はぐらかすな。焦らして何になる。さっさと言わないか」


 出せうる限りの低い声で言うと、祐介がビクッとした。


「あの、ラーメンっていうのは汁に浸かった麺料理で、上に焼豚、えーと豚肉とか、メンマとかたまごとか海苔とか乗っかってて、とにかく美味しい食べ物」

「麺料理……」


 メンマという代物が何のことだか分からなかったが、旨そうではある。


 そう思った瞬間、リアムの腹がぐうううう、と大きな音を立てた。この身体は相当腹を空かせているらしい。


「よし、祐介」

「はい」

「そのラーメンとやらを食べに連れて行け」

「……だからさっきから」

「何だ」

「いえ、何でもないです」


 結果。


 リアムが人生で初めて食したラーメンという料理は、最高に美味かった。

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