第21話 ククルの発見(ククル視点)

 しばらくすると、門番のパウル周辺にできていた人垣の中から、先ほど見かけたNPCの女の子が出てきた。門番のNPCであるパウルと、このNPCの少女が会話を交わしていたのだろうか。


 パウルはメインクエストを受けるために必須となるサブクエストの起点になるNPCだから、ログインして最初に話しかけに来るプレイヤーも多い。


「パーティ募集。当方、虎人族男ファイターでレベル1。クエストから一緒に始めませんか?」

「女子限定パーティを組んでおしゃべりしながらクエストしませんか。私はエルフ族女ウィザードです! パウル前!」

 …………

 ……


 普段、他のゲームをしている仲間で集まってアルステラを始めるプレイヤーたちはログイン時にスポーンした場所付近で集まる傾向がある。もちろん、仲間を探すのにキャラ名を叫ぶプレイヤーも多くて騒がしい。だが、普段から仲間だけで活動しているプレイヤーというのは少ないのか、このパウル前は本当にプレイヤーが多くて騒がしい。最初にキャラを作ったときとの違いは、背の低いハーフリングが増えているので見通しがいいところだ。でも、NPCの少女はそのハーフリングよりもさらに小さいので、ハーフリングに埋もれてしまう。


 どこに行ったのかな……と、パウルの周辺を凝視するが、なかなか見当たらない。


 すると、NPCの少女が人ごみから出てきて村の中心部に向かって歩きはじめた。


 ナツィオ村はそんなに大きくはない。


 少女はポータルコア近くで立ち止まると、天を仰ぎ、大きく溜息をついて再び歩きだした。

 背後から見ているだけなので、どういう表情をしているのか、なぜ立ち止まったのかなど全然わからない。


 やがて少女は一軒の建物の前で立ち止まった。

 リビルドする前のキャラで町の地図クエストをやったときに来たことがある。扉が閉まっているが、ここは雑貨屋だったはずだ。確か、店主たちはグラーノに買い出しに行っていると隣の建物……ザビーネの魔道具屋で聞いた記憶がある。


 メインクエストでは、バトルウルフのせいで漆黒の森を通ることができず、商人たちが森の中で動けなくなっていたはず。


 もしかすると……


「君はこの店の子どもかい?」


 考えるよりも前に声を掛けていた。

 あくまでもゲームの中のNPCだ。ずっと絶食していたり、眠れなくても死ぬということはない。だけど、何度も村の門まで行って商人たちの帰りを待っている姿を想像すると切なくなってくる。


「うん。お兄ちゃんは……冒険者さん?」


 NPCの少女はキラキラとした目で俺のことを見上げてくる。

 アルステラのゲーム内ではビルドすることができない少女の造形はとてもよく作りこまれていて、思わず本物の人間なのではないか、と思ってしまう。


「いや、これから冒険者になるんだ」

「そう……」


 少女は明らかに落胆したような表情をみせた。

 つまり、少女は俺が冒険者であることを期待していたってことだろう。


「俺はククル・シュライバーだ。君の名前は?」

「エレナです」


 簡易鑑定もあるけど、流石にのぞき見しているみたいで気分が悪い。

 あと、こんな幼い女の子に声をかけるなんて、現実社会だと許されないことだから妙に緊張する。


「ククルさん、冒険者になったら私を助けてくれる?」

「ああ、もちろんだ。まずはレベルを上げないといけないけど、約束するよ」

「うん、約束だよ」


 少女はニコリと笑い、道具屋の扉をあけて中に入っていった。

 鍵が掛かる音がすると、周囲にはまた他のプレイヤーたちによる雑踏と喧噪に包まれていった。


(機械精霊、メインクエスト、サブクエスト、職業クエストの他に知られていないクエストがあるのか?)

《特定の条件のもと発生するクエストが存在します。但し、具体的なことは教えられません》

(むう……)


 もし、特定条件の下で発生するクエストの起点がエレナだとしたら、先ずは冒険者になるということなのだろう。

 これは検証するだけの価値がありそうだ。現時点の状況を編集長にも話しておくほうがいいだろう。


『編集長、面白いことを発見しました』

『面白いだと!?』

『ええ。条件発生型クエストというのがあるのを知っていますか?』

『なんだそれは。聞いたこともないぞ』


 やはり編集長もそのあたりの情報に疎いようだ。それはそうだろう……メインクエストの発生方法に躓いていたから、メインクエストの発生方法が判明次第、エレナのことを見落として先を急いでしまったのだから。


『実はですね……』


 俺は機械精霊に確認した条件発生型クエストの存在と、ナツィオ村のエレナという少女がその開始ポイントになりうること。エレナとの接触方法について説明した。


『なるほど……メインクエストを終えてしまった場合、その条件発生型クエストを受けられるかどうかを検証する必要があるな』

『はい。そこは編集者メンバーの誰かにお願いするしかないので……』

『わかった。それは私とミーテスでやろう』

『お願いします』


 キャラのリビルド前にもサブクエストの発生を確認したりしていたが、それらは他のプレイヤーが既に見つけた情報をもとに行動した結果だった。

 でも今回は恐らく誰も知らないだろうことを見つけることができた。


 なんだか、すごく仕事をしたような満足感が俺の中を満たしていく。


 だが、ここで満たされているようでは意味がない。

 この先で再びエレナに会って、クエストを発生させねばならない。


 俺は、先ずは冒険者になるべく、門番のパウルのところに向かった。


 冒険者になって職業クエストやサブクエストをやりながら、道具屋に行ってドアを叩いたり、扉の近くでエレナが出てくるのを待ったりしたが、彼女は現れなかった。


 客観的にみると、俺ってヤバイやつかも知れない……。


 自分自身が小児性愛者のストーカーのようにさえ思えてきたころには、サブクエストや職業クエストをすべて終わらせ、レベルも10になっていた。


『ククル。君の言うとおり、ナツィオ村のエレナという少女に接触しようとしたんだが……』


 突然、編集長からP2Pチャットが飛んできた。

 別に厳しくて怖い人ってわけじゃないが、流石に立場が上の人から突然話しかけられるのは慣れない。とはいえ、前触れを出してもらうことなど不可能なんだけれど……。


『どうでした?』

『メインクエストを終わらせているので、道具屋が営業しているんだ』

『じゃあ、エレナに会えなかったと?』

『残念ながらそのとおりだ……』


 逆に考えると、メインクエストを終わらせていなければエレナに会えるということだ。ならば、メインクエストを終わらせていない状態にすればいいだけではないだろうか。


『グラーノのクエストで繰り返し受注できるものがあったと思うのですが……』

『む、確かに。完了したクエストをキャンセルすればいいのか』

『ええ。試してもらえますか?』

『うむ。キャンセルしたと同時に道具屋が閉店した状態に変わったな』


 思ったとおりだ。メインクエストをやり直すことができれば、条件によって発生するクエストであっても全員が条件を満たしてから再チャレンジできるようになっている。


『じゃあ、エレナに会えるまで冒険者ギルドで待ってますね』


 おそらく、エレナのクエストはメインクエストと密接に関係している。

 道具屋の前で会えないなら、メインクエストの発生場所でエレナに再会できるはずだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BORDERLESS~進化したVRMMORPGで何故か私が最強になっています~ FUKUSUKE @Kazuna_Novelist

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

BORDERLESS 設定・用語説明など

★32 SF 連載中 30話