第18話 チェーンクエストの検証方法(トート視点)
『さて、困ったね』
取材を終え、ノアが抜けたパーティチャットで私はため息を吐くように言った。
ミーテスは去っていくノアのうしろ姿を眺めていたが、私へと向き直る。
『ええ、編集長は既に裁縫師、私は錬金術師になって、レベル5のクエストまで終わらせていますからね』
『うん、先ずは他のウィキ編集者に未だクラフター系の職業に就いていない人がいるか確認しようと思っている』
ウィキの編集者たちでパーティを組んでグラーノまできたので、既に全員がクラフター職に就いている可能性もある。しかし、クラフター職に就いたという報告は誰からも聞いていないので確認する余地はあるはずだ。
『手分けしますか?』
ミーテスはフレンドリストを開いて、他のウィキ編集者のログイン状況を確認しながらたずねた。
ギルドはレベル30以上、しかも王都でないと作ることができないので、連絡手段は個別にメッセージやチャットでやり取りするしかない。
『いや、最初は2名ずつパーティに招待するかたちにしよう。他にも情報を集めたメンバーがいるかも知れないから』
『誰を招待するかは任せてもらっても?』
『ああ、よろしく頼むよ』
職業系のクエストは受けたものをキャンセルできるが、完遂してしまったものについてはキャンセルができず、なかったことにはできない。
クラフター系のクエストがどのような内容で、報酬として何が貰えるのか、お金は何リーネ貰えるのか、ということもウィキの重要なコンテンツになる。だから、既に全員がクラフター系のクエストを進めてしまっているかもしれない。そのときはサブキャラを作り、そちらでナツィオ村から再スタートするということも考えないといけない。
『現在ログインしているメンバーは我々を含めて8人ですね。順番にパーティに誘いますね』
《チャットルーム「取調室」に、セシャト・シュライバーが参加しました》
《チャットルーム「取調室」に、ムーサ・シュライバーが参加しました》
招待されたばかりのセシャトが早速発言する。
『こんにちは。何やら物騒なルーム名ですね』
『おつかれさまです。ほんと、ルーム名が物騒だよね。「取調室」だなんて……私が何か悪いことでもしたのかとドキドキしたじゃない』
続いてムーサが挨拶とともにルーム名をいじってくる。
『おっと、すまない。名称変更するよ』
私は慌ててチャットルームの名前を「ウィキメンバー会議室」に変更した。
『一転して、真面目……』
くつくつと笑うムーサの声がパーティチャット内に響き、続いてセシャトの笑い声が聞こえる。
こんなことを言われると恥ずかしくなるが、私は気にせずに彼らを招集した理由を説明する。
『こうしてパーティに誘ったのは互いの近況報告というか、何を調べていて、どういう状況なのかを教えて欲しいと思ったからだ』
『編集長とミーテスはどうなの?』
『そうね、私たちから話すのが筋でしょうね』
ムーサの質問ももっともだと、ミーテスが進捗について説明を始める。
『グラーノからの行動なんだけど、生産ギルドに行ってギャザラー系職業から始めました。北湖ダンジョンのこと地図を作りながらだけど、おかげで採掘師のレベルは2人とも10まで上がりました。北湖ダンジョンの第2層までは地図も完成しているわよ』
地図の情報はウィキには必須の情報だが、ダンジョンの地図となると更に重要度が増してくる。スカウター職がいればスキルで地図作成ができるが、私がウィザードで、ミーテスはハンターだったのでお手製だ。
『町に戻ると、生産ギルドの1階に人が溢れていたのには驚いたけど、その理由は2人も知ってるわよね?』
『はい、知っています』
ミーテスの質問にセシャトが返事をした。
ギャザラー系の4つの職業でレベル5を達成すれば、ビギナーギャザラーセットが揃うのだが、すべて揃った状態で装着すると、MOBから認識されにくくなるスニークが使えるようになるというものだ。
この情報は発見主が説明しているところを動画配信されていたので、ほぼすべてのプレイヤーが知っているはずだ。
『クラフター系の職業クエストを受けたプレイヤーなら知っているはずだけど、クラフター系も同じようにセット装備があるのは知ってるよね?』
『ええ、革細工師になるとビギナークラフターグローブが貰えるね』
『魔道具師もビギナークラフターエプロンを貰ったよ』
クラフター系職業は8種類あり、最初のクエストを終えるとビギナークラフター装備が貰える。
ミーテスが選んだ錬金術師はグローブ、トートが選んだ裁縫師はシャツで、これでビギナークラフター装備の半分がどの職業で貰えるかがわかったことになる。
『今の情報はビギナークラフター装備の情報としてウィキに書かないといけないわね』
ミーテスは仮想のキーボードを表示し、ビギナークラフターセットについての情報をメモしている。
彼女がメモをしているあいだは私から話をしよう。
『それで、これは先ほど仕入れた情報だが、クラフター職にはチェーンクエストが存在し、その報酬としてビギナークラフターセットSという装備が貰えるということが判明した。
デザインは同じだが色使いが異なる。そして、DEX値に補正が入るらしい』
『それは私のような獣人系のプレイヤーにはありがたいです。獣人は基本的にDEX値が低めに設定されていますから、クラフター系の職業では成功率が下がるので……』
『そういえばセシャトは猫人族だったな』
実際に獣人系を選択しているプレイヤーは他にもいるが、私とミーテスはエルフ族、ムーサはヒト族だ。
『ビギナーギャザラーセットの効果については多くのプレイヤーが各職業に就いてレベル上げの最中だから検証は不要として……ビギナークラフターセットSについては他に漏れていないようだし、検証が必要だと思っている』
『そうでしょうね』
『ああ、間違いでしたとは言えないからね』
『そして、チェーンクエストについても検証が必要だ』
検証の必要性についてセシャトとムーサの合意を得ることができたところで、私はノアから聞いたクエストの発生条件と、各ギルドのクエストの内容、報酬について説明した。
だが、セシャトとムーサは自分たちと同様、既にクラフター系の職業に就いてしまっている。だから、説明がおわったところで、ミーテスがセシャト、ムーサにたずねる。
『クラフター職に就いていないメンバーに心あたりはある?』
『残念だけど……思い当たらないわ』
『そうか……』
セシャトの返事に、思わず溜息を吐くように声が漏れた。
だが、少し間をおいてからムーサが思い出したように話しはじめる。
『そういえばククルがランキング1位のプレイヤーを真似てハーフリングのスカウターでキャラビルドをやり直すらしい。今ごろはナツィオ村にいるだろうし、ククルならいけるかも知れないな』
『その話は初めて聞いた。本当か?』
思わず食いつくような返事をしてしまったが、隣でフレンドリストを確認していたミーテスが言う。
『あ、確かにフレンドリストから名前が消えてますね』
『むう、フレンド登録もやり直しになるじゃないか』
ウィキ編集者メンバーにハーフリングがいなかったので、検証という意味ではとてもありがたいのだが、連絡を取れなくなるのは辛い。
『しかたがない。ログインしたらIDをもとに我々にメッセージを送ってくると思うが……私とミーテスはナツィオ村でククル探しをする。セシャト、ムーサは悪いが他のチェーンクエスト発生条件を探してみて欲しい』
『了解です』
『わかったわ』
当初は自分たちでチェーンクエストの発生条件を探そうと思っていたが、検証してくれる仲間を見つける方が先だ。
このあと、セシャトとムーサの調査状況を確認し、私とミーテスはテレポでナツィオ村へと飛んだ。
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