第44話 変わっていくものと変わらないもの


リールside


俺は、屋上に来ていた。

なんでかって?それは…。


リール 『コソコソしてないで出てこいよ、ルーファス。』

ルー「やはり、気づかれてましたか。」


そう、さっきからルーファスが俺たちを正確に言えば、俺を尾けてきていたからだ。

リール『分かってんだろ?俺を尾行するなんて事は不可能だ。』

ルー「えぇ、それでこそ私が憧れた貴方です。」

リール『はぁ、それで?俺を尾行していた理由は?グラレスから俺の監視を頼まれたか?』


あいつがそんな事するとは思えないが、一応尋ねてみる。

返答を待っていると、ルーファスは不気味な笑みを浮かべながら、口を開く。

ルー「いえ、違いますよ。これは私の独断です。」

リール『ほぉ?なぜだ?』

ルー「今の貴方が見るに堪えないからですよ。」


どういう事だ?全くもってわからん。


ルー「昔の貴方は、そんな怪我を負うような人では無かった。敵を冷酷に残忍に殺し尽くし、全てを薙ぎ払ってきた。敵に情けをかけるなんて事も一切無かった。」


ルーファスは狂ったような表情をして俺を見つめた後、落胆したように呟く。


ルー「それがなんですか、殺そうとした相手を保護する?無価値な人を庇う?情という物は貴方にとって1番必要ないもののはずだ!貴方の根底にあるものはそんなものでは無い。何も思うことなく冷淡に戦うその姿は、戦場の中で一際輝いていたのだから、情という下らない価値観を持ってしまった貴方は無価値になってしまう。それが私は耐えられない!」

ルーファスの声が屋上中に響く。


リール『…それで?ルーファス、お前は何がしたいんだ?』

ルー「貴方には戻って欲しいんですよ、昔のように。私が憧れた貴方に!」

リール『…なぁ、ルーファス。』

ルー「何ですか?」

リール『お前は、自分の命を賭けてまで守りたいと思うやつはいるか?』

ルー「??」


俺の質問にルーファスは首を傾げる。

リール『任務でもなく、義務でもなく。上司、部下だからでもなく、全てを投げ打ってでも守りたい奴はいるか?』

ルー「…それがどうしたというのです?私はあの頃から何も変わっていません。守るものなんてもう…。」

そう言ったルーファスの顔は苦しそうで、悲しそうで、何かをこらえる子供のように見えた俺はルーファスを抱きしめた。



ルー「り…ら…さん?」

リール『そんな表情が出来るやつが守るものがないなんてあるわけねえだろ。』

ルー「そんなもの、ありませんよ。私には何も無いんですよ。」

俺はボイスチェンジャーのスイッチをoffにした。

凛怜として、話を聞きたかったから。

凛怜「嘘だな。」

ルー「…あなたの本当の声を久しぶりに聞きましたね。」

凛怜「ずっと、声変えてたからな。」

ルー「なぜ、嘘だと思うのです?」

凛怜「男の勘だ。」

ルー「何ですかそれ、貴方は馬鹿です。そこだけは変わらないのでしょうか?」

凛怜「失礼な奴だな。」


…酷くね?

ルー「…。」

リール『良かったら、聞かせてくれないか?お前が守りたいと思っていたものを。』

ルー「…はい。」


ゆっくりと懐かしむように、そして悲しさを孕んだ声で、話し始めるのをゆっくりと聞くのだった…。



ラミside



in療養室


ラミ「やぁやぁ、お二人共、体調はどうだい?」

二ー「…あの人は?」

ラミ「リールの事かな?今は用事で席を外しているよ。」

ワン「…。」

杏華「あなた達、自分がやったこと分かっている?」

二ー「あぁ、わかっている。俺は、覚悟の上でいる。ただ、ワンだけはどうにか生かして欲しい。」


そう言った、少年の目に宿っているのは自分はどうなってもいいという覚悟だ。


ワン「待って、ニーは助けて、私が主導だったから。ニーは従ってただけ。」

そういう少女の目は、少年同様に覚悟の目をしていた。

…なるほどね、凛怜が気に入るわけだよ。


ステラ「…あなた方の処遇は、リールさんが来てからです。とりあえずは、身体を休めてください。」


ステラの言葉に面をくらったような表情をする2人を見て、笑ってしまった。

それを見て、何がおかしいのか分からないと言った表情を私に向けてきた。


ラミ「あぁ、笑ってしまってごめんね。君たちの顔が面白くてね。意外だと思うよね、普通は殺されたって文句は言えない。それが保護だと言われたんだから。」

杏華「正直、こんな処置はありえないわ。あのバカ、本当に昔から振り回してくれるのよ。」

アイリ「あー、私たちの時もそうだ。誰でも拾ってくるんだ。ペットではないんだぞと何回も言いたくなったくらいだ。」

ステラ「変わってないんですね…リールさん。」


そう、何も変わっていない。

ステラの時も武美の時もラルクの時も。


回想

ラミ(13)「それで?この子はどうしたの?こんな所に連れてきて。」

凛怜(13)「…拾った?」

ラミ(13)「いや、ペットじゃないんだから、うちの部隊に入れるの?」

凛怜(13)「うん、頼んだ。」

ラミ(13)「頼んだって無責任過ぎない?長官が怒るよ?」

凛怜(13)「…頼んだ。」

ラミ(13)「…はぁ、分かったよ。貸1つだからね?」

凛怜(13)「…了解。」


回想終了


こんな会話もあったっけ。


杏華「ラミ?どうしたの?」

ラミ「いや、何でもないよ。リールのあれはもう今更な気がするなぁって思ってね。」

アイリ「それはそうかもしれんな。」

杏華「ただ馬鹿なだけなんじゃない?」


杏華は相変わらずだなぁ。


ステラ「私は治りそうの無いものという認識をしていれば良いのでしょうか?」

杏華「そうよ、アイツは昔からそうなんだから、もう治りようがないわ死んでも無理ね。馬鹿よ」

アイリ「そうだな、リールは馬鹿な所がある。だが、それがいいんじゃないか。」

ラミ「そうだね、馬鹿なところが良いところだよ。」


そんな会話をしていると。


リール『悪かったな、バカで…。』


声のした方向に目を向けると恨めしそうな目で見ているリールが立っていた。



リールside


ルーファスとの話が終わり、野暮用を片付けた所で、療養室に向かうと。

俺の話をしていたんだが、なぜか罵倒の嵐だった。

え?なんでこんな罵倒されてるの?泣くよ?


これ以上言われても心に大ダメージを負うだけなので、話しかけることにする。


リール『悪かったな、バカで…。』


ラミ「リール、遅いよ。何してたの?」

リール『ちょっと、野暮用でね。それで、なんで私は罵倒されていたのかしら?』

杏華「事実だからよ。あんたは昔から、こういう事して面倒事は全て押し付けてきたじゃない。恨み言の一つや二つあるわよ。」

リール『ぐっ、それは申し訳ない…。』

杏華「ほんと、反省してよね。」

リール『…はい。』


ぐうの音も出ないとはこの事だろう。

項垂れてる俺に。

アイリ「まぁまぁ、それくらいにしておいてやってくれ。」

リール『アイリ…!』


アイリが庇ってくれる。さすがアイリ!頼りになる!

アイリ「リールのこれはもう治しようがないんだ。こう言ったところで無駄だと思うぞ。」

リール『あれ?アイリさん?』


これ、庇ってる?追い打ちかけてない?


ステラ「お二人共、その辺で。」

リール『ステラ…!』


やはりステラだけは味方でいてくれ…。


ステラ「何言ったって、リールさんは繰り返します。なので不毛なことを言うのは辞めましょう。」

リール『あれ?ステラさん?』


更にコンボを繋げてきた!?


ラミ「皆、リールが泣きそうになってるよ。まったく、リールおいで。」

リール『ラミィィィィィ。』


俺はラミに抱きついた、やはりラミは味方だ。

ラミ「よしよし、怖かったね。」

リール『うぅ、やっぱりラミだけだよぉ。』


あぁ、これがバブみと言うやつなのか、もう俺ラミと結婚する。

そう思っていると。


ラミ「」フフン

杏華「…なにやってんの?」イラッ

アイリ「リール?浮気か?」イラッ

ステラ「リールさん?」イラッ

リール『』ヒッ

3人からど黒い声が聞こえた。


3人「「「正座!!」」」

リール『はい!』


この後、俺は地獄の味わったのだった…。

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