第32話 ステラの過去
ステラside
私は5歳の時、両親に捨てられ、実験材料として、研究所にいた。絶望と苦痛を与えられる毎日だったが、ある日、私に人ならざる力が発現した。
私は
それから、私は重力を操る力を持ち、様々な実験を
強要され続けた。
けれど、逃げようとはしなかった、だって、捨てられたんだから、逃げた所で生きる事なんて出来ない。
異常種の扱いがどんなに酷いものか、大人達を見て、理解してしまったから。
この能力で、6歳の時、命令とはいえ、人の命を奪った。
簡単に命が無くなる瞬間を体験してしまった、見てしまった、大人でも、私には誰も勝てない、周りの人は、私を恐怖の対象として見ていることに気付くのも、そう遅くは無かった。
季節が幾つ過ぎ去ったか、数えるのもやめた頃。
「MIOだ、全員拘束する!」
「ぐあっ、くそったれ!MIOの犬どもが!」
MIOという人が研究所の皆を連れて行った。
私は、MIOの突入部隊を殲滅しろという命令に従い、戦いに出た。
その時も、何も感じていなかった、人が来たら切る、能力を使って、潰す。
でも、白銀色の髪と紅色の瞳を持ったあの人は、私の前に立ちはだかり、私の能力をものともせずに、一瞬で間合いを詰め、私を気絶させた。
私の人生初の敗北を味わった瞬間だった。
目を覚ますと、レギンス長官という、MIOの偉い人が立っていた。
レギ「特務部隊に入らないかい?」
と、私を勧誘してきた。
ステラ「…はい。」
当時は、選択肢がないと思っていたので、二つ返事でOKを言った。
ステラ「あの、私を気絶させた人は…?」
レギ「ん?あー、凛怜君の事かな、今は任務だよ。もうすぐ帰るだろうけど、君は今日は休んでなさい、明日、紹介するから、それじゃゆっくりしてるんだよ。」
そう言われ、今日は素直に休むことにした。
次の日、私は殲滅特務部隊のメンバーと顔合わせをした。
そこに目当ての人はおらず、私よりも少し年上の子供が3人いた。
レギ「あれ、凛怜君と紅葉君は?」
ラミ「興味無いって、どこかに行きましたよ。紅葉ちゃんは、凛怜について行きました。」
杏華「本当、あの2人勝手なんだから!帰って来たら、殴るわ!」
グラ「言っておいたはずなんですが、申し訳ないです…。」
レギ「んー、困ったねぇ、まぁ後でもいいか。」
興味無いという言葉を聞いて、なぜか胸の中がモヤモヤした感覚になっていた。
味わった事の無い感覚に戸惑いが大きかったのは今でも記憶に残っている。
レギ「君は、名前があるのかい?」
ステラ「…ただのステラ…です。」
グラ「グラレス=ドレスロースだ、隊長をしている。君を歓迎するよ。」
ラミ「私はラミ=ノイドだよ、ステラちゃんよろしくね。」
杏華「天源 杏華、足、引っ張んないでよ。」
ステラ「はい、よろしくお願いします。」
レギ「何か聞きたい事は、あるかい?」
ステラ「…あの、私を気絶させた人はどんな人なのでしょうか。」
レギ「どんな人か…。それは自分の目で確かめた方がいいと思うよ。」
グラ「下手に語るよりはいいと思います。」
ラミ「そうだねぇ…。」
杏華「あんなの知りたいなんて、物好きにしか、考えられないわ。」
ラミ「あ、そうだ、この時間帯ならあそこじゃない?どうせなら、行ってみる?」
レギ「心当たりがあるのかい?」
ラミ「はい、確実にそこにいますよ。」
レギ「なら行ってみるといい、ラミ君、案内を頼めるかい?」
ラミ「了解、長官。じゃあ、付いてきて。杏華達はどうする?」
杏華「私はパス。」
グラ「僕も遠慮しとくよ。」
ラミ「了解、じゃあ2人で行こうか。」
ステラ「…はい。」
なんだか、よく分からないが、会えるというなら会いたい。
しばらく歩くと、そこはMIO本部の屋上だった。
ラミ「あ、いたいた。おーい、凛怜、紅葉ちゃーん。」
私はラミさんが見ている方向に目を向けると。
目当ての人が紅色の髪の少女と一緒に寝ていた。
それがなんだか、神々しくて、綺麗だった。
口には出さなかったけれど、1つの絵画を見ている気持ちになったくらいだ。
ラミさんの、声で起きたのだろう、目をパッチリ開き、私たちの方向へ向いた、紅髪の少女も同様だ。
凛怜「…任務?」
ラミ「違うよ。」
凛怜「…そう…誰?」
私に向ける目に、親近感が湧いた。
ラミ「この子は今日付けで入った新人だよ。」
ステラ「…ステラです。」
少しの沈黙が流れる。
ラミ「…凛怜達も自己紹介してくれないかな?」
ラミさんがそう促すと、興味がなさそうに、口を開く。
凛怜「…黒葉 凛怜。」
紅葉「黒葉…紅葉…。」
ラミ「本当、なんかごめんね。」
ステラ「いえ、あの、黒葉 凛怜さん、いきなりなんですけど、なんで、私の能力が効かなかったんですか?」
凛怜「…何の事?」
ラミ「この子、凛怜と対峙したんじゃないの?」
ステラ「はい、私はあなたに負けました。私の能力は、重力を操作する事。たしかにあなたに発動して相当な重力がかかってたはずです。」
大の大人でも、立ち上がる事が困難になるほどの重力をかけたはずだ、それでもあの速さは尋常じゃない。
凛怜「…少し重かっただけ。」
紅葉「凛怜、嘘ダメ、無理した。今も少し痛いでしょ。」
凛怜「…そんな事ない。」フイッ
ラミ「…凛怜、後で医務室ね、これは命令だから。」
凛怜「…めんどくさい。」
ラミ「りーらー?」
紅葉「凛怜、無理ダメ。」
凛怜「…分かった。」
変なやり取りをしているが、私の心中は穏やかじゃなかった、私の能力を受けて、その程度なんて、本当なら、死んだっておかしくない程の力を込めたはずだ。
生きてる事さえありえないのに、それを少し重かったと言える程度に収まっている?
どのくらいの強さかは分からない、だけど、私よりも確実に強い事は明らかだ。そう私より強いのだ!
私の身体はその事実に高揚した、置いてきてしまった感情が戻ってきたような感覚だった。
恐怖の対象としか、見られなかった私よりも強い、私は仲間を得た感覚がこれなんだと思えた。
ラミ「おーい、ステラちゃん?」
ステラ「…え?あ、なんでしょうか?」
ラミ「いやボーッとしてたから、私は凛怜を医務室に連れていくから、君はレギンス長官の所に行っておいで、場所は2階の長官室だよ。」
ステラ「はい。」
ラミ「ほら、凛怜行くよ。」ギュッ
ラミさんは凛怜さんの腕に自分の腕を回した。
凛怜「…自分で歩ける。」
紅葉「ダメ」ギュッ
今度は、紅髪の少女、たしか紅葉さんが、腕に抱きついた。
ラミ「説教も込みだよ。観念して、来るんだ。」
凛怜「…めんどくさい。」
そうして3人は、歩いていってしまった、その光景を見て、胸の奥がチクッとした気がした。
そしてレギンス長官から説明を受け、制服を受け取って、その日は終わり、これからどうなるのだろうと、なぜか期待した。
入って数ヶ月、私は、凛怜さんと会話していなかったけど、常に付いて行った。
私と同じ目をしてた、全てを諦めた目を、そんな人がどんな事を思い、どんな生活を送っているのか、知りたかったからだ。
分かった事は、任務の時以外は、常に紅葉さんといるってことや、杏華さんによく勝負を挑まれ無視を続け、たまに返り討ちにしていること、あとは、面倒くさがり屋ということ。
そして…。
杏華「ねぇ、あんた、凛怜に気があるの?」
ステラ「それはどういう?」
何を言ってるのか分からなかった。
ラミ「恋しちゃってるの?って事だよ。」
ステラ「…恋?」
恋とはなんだろうか…。
杏華「…どうやら、恋自体知らないようね。」
ステラ「はい、分からないです。」
ラミ「恋っていうのはね、人が人に対して、気になり始めたり、興味を持ったり、その人の事で胸が苦しくなったり、痛くなったり、ドキドキしたり、なにより好きになる事なんだよ。」
気になり…興味を持つ…?
杏華「まぁ、大体は男女でするものと言うけれど、同性同士でも恋をする事があるらしいわ。」
ステラ「では、私がそうだという場合、同性に対して、の所に当てはまるのでしょうか?」
ラミ「え?」
杏華「ん?」
ステラ「??」
何か変なことを言ったのだろうか…。
ラミ「…あー、凛怜はね、あの容姿だけど、男の子だよ。」
…男の子だと言うことでした。
それを知ったところで、変わる訳もなく、観察は続きました。
観察を続けていると、凛怜さんと紅葉さんが特訓している所を見かけ、隠れて見ようとしたが。
凛怜「…そこにいるのは誰?」
紅葉「…。」
直ぐにバレてしまい、仕方なく、姿を現した。
ステラ「わ、私です。」
凛怜「…ステラ…だっけ?」
ステラ「はい、あの特訓…してるんですよね?」
凛怜「…うん。」
ステラ「見てても良いですか?」
凛怜「うん。」
紅葉「凛怜、早く。」
凛怜「分かった、おいで。」
それが合図になり、凛怜さんと紅葉さんの特訓は始まった。正直、目で追うのがやっとだ。
すごいと、つい口に出してしまう程には2人とも強かった。
戦いが終わり、紅葉さんは息が上がっていたが、凛怜さんはそんな様子は無かった。
凛怜「…また強くなった、偉い。」ニコッ
紅葉「はぁはぁ、えへへ、そうかな?」
その時、衝撃が走った、いつも無表情な凛怜さんが、笑ったのだ、そして紅葉さんを褒めた。
…羨ましいと、胸の奥から、なんだか湧き上がってくるドロドロとしたものを確かに感じた。
ステラ「あの!」
凛怜「…ん?」
ステラ「私も一緒にやりたいです!」
凛怜「…何で?」
ステラ「なんでかは分かりませんけど、この特訓で何か得られる気がするんです!お願いします!」
凛怜「…紅葉、いい?」
紅葉「うん、でも浮気はメッだから。」
凛怜「??うん、わかった、いいよ。」
ステラ「!!ありがとうございます!では、また来ます!」
それから毎日特訓した、凛怜さんは本当に強くて、紅葉さんにも全然勝てなかった。
それが悔しかったけど、研究所にいた頃よりも充実してた。
凛怜さんは、私のダメな所を指摘して、良い所は褒めてくれる、頭を撫でてくれる。それが嬉しくて、温かい気持ちになった。
最終的には、特務部隊全員で、特訓してたけど…。
でも、それはそれで楽しかった。ずっとこの時間が続けば良いと思った。自分なりに笑う回数も増えてきたと思ってた。
ただ、それも長くは続かなかった。
凛怜さんは、クロリデルファミリーの1件以来、銀髪の冷血姫と呼ばれ始めてから、全てがおかしくなってしまっていた。
MIOの内部で、横領をしたのは実は凛怜さんなんじゃないかとも噂をされ始め、壊滅させたのも、口封じの為などと、そんなでまかせも出始めた。
私はレギンス長官に真偽を確かめる為に長官室へ行ったが、ちょうど凛怜さんと紅葉さんがレギンスさんと話していたようで、私は咄嗟に隠れた。
レギ「凛怜君、本当にいいのかい?」
凛怜「うん、大丈夫。」
レギ「皆にはこの事を?」
凛怜「…伝えてない。」
レギ「…そうか、でも君が辞める必要なんて無いんだよ?根も葉もない噂だ。」
え?辞め…る?ここを去るってこと…?
私は聞いてしまった、胸が痛い。嫌だ、離れるなんて嫌だ、そんな事ばかり、考えてしまう。
凛怜「いいの、命令違反したし、紅葉は、いていいって言ったけど。」
紅葉「凛怜がいる所にいる。」
レギ「…分かった。ガリスによろしく伝えておいてくれ。」
凛怜「うん、お世話になった。」
紅葉「お世話になった。」
レギ「困ったらいつでもここに来るんだよ。」
凛怜「うん。」
レギ「何かやりたいことがあるのかい?」
凛怜「ある、でも秘密。」
レギ「そうか、まぁ連絡はいつでも待ってるからね。」
凛怜「うん。紅葉行こう。」
紅葉「うん。」
そう言って、2人は、長官室へ出て行ってしまった。
それでも、まだ私の中では味わった事の無い痛みと苦しさでおかしくなりそうになっていた。
そこで初めて知った、これが恋の苦しみだと…。
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