第12話 交渉開始①



紅葉side


MIOへ向けて、車で移動中。

迎えを寄越すと言われたけど、それは遠慮した。

何をされるか分かったものじゃない。

一応信用出来る人もいるが、全員が全員そうではない状況で、敵がいるかもしれない所の用意した乗り物で行ける方がどうかしてる。


伊達に、この世界にいないのだ、私たちの場合は特に警戒心も人一倍高くなる。

その証拠に、私を含めて妹達は、まだMIO本部に着いてないのにも関わらず、警戒を怠らない。


常に気を張っている訳では無いが、この時ばかりは、皆一言も喋らず、いつでも戦闘に移行できるように構えている。


紅葉「怜、能力常時使用は疲れるだろうけど、大丈夫?」

怜「…問題ない。」

凛「怜、帰ったら、冷えピタ貼るよ。」

怜「…あい。」



やはり、相当な負担なのだろう。

無理させちゃってるわね…。

凛、良いお姉ちゃんね、大きくなったわ。

思えば、この子達、凛怜の事以外で泣かなくなったわね。

凛怜がいなくなって、無理をすることも増えたし、そういう意味でも、連れ戻さないとね…。


それを最後に話は無くなった。

私も目を閉じ、意識を集中する。

私も気配を探ることは出来る、怜ほどじゃないけど、スラム街で培った私の能力だ。

まだMIO本部まで時間はある、私が姉として、皆を守ろう。

そう決心し、車が止まるその時が来るのを待った。



数時間後



瑠衣「皆、もう着くよ。気を引き締めてね。」


車特有の振動がなくなり、瑠衣の掛け声と共に、目を開ける。

あれから何事もなく、MIO本部に着いた。

けど、ここからが本番だ、より気を引き締めていこう。


そして、一葉を除いた皆が車から出る。


一葉「皆、無事に帰ってきてね。」

紅葉「一葉も気をつけて。」


一葉と一言交わし、車から出ると、セグレットが本部前で待っているのが見えた。

セグ「クローバファミリーの皆様、お待ちしておりました。こちらへご案内します。」

瑠衣「分かったよ。」


紅葉「待ちなさい。」

セグ「…なんでしょうか?」

紅葉「持ち物検査はしないの?ここに入る時の義務と聞いているのだけれど?」


そう、MIOに入る際はどんなファミリーだろうと、武器は持ち込み禁止だと決められる。

なので、愛凛も刀を車に置いていったのだ。

しかし、セグレットの口から予想外の事を言われる。


セグ「…はて、私はもうしましたよ?」

キョトンとした顔でそう言うセグレットに対して、その意図を察して。


紅葉「…そうね、野暮な事を聞いたわ、ごめんなさいね。」

セグ「いえ、大丈夫です。では、ご案内します。」


セグレットに案内され、交渉の場へ瑠衣を先頭に、すぐ後ろを私と愛凛、その後ろに凛と怜の順番で、向かう。

より一層、警戒心を強くする、愛凛も同様だ。

怜は能力を使用し、凛は怜の体調を気遣いながらも、周囲の警戒を怠っていない。


歩いている間もクローバファミリーの幹部達が揃ってMIO本部にいる事が珍しいのか、すれ違う全ての人の好奇な視線となんとも言い難い下品な視線が私たちに注がれる。

それもそのはず、私達は基本、秘密主義で通っている、幹部の人数などは公開はしているが、それ以上の詳細な情報は基本伏せている。

それが、全員、しかも幹部が勢揃いしているのだ。

自分で言うのはおかしいかもしれないけど、好奇な視線に晒されるのも頷ける。

ただ、2つ目の視線にはただならぬものを感じる。

一応、顔は覚えたのでこれを凛に伝えよう。

凛の顔を見て、意図を伝える。

凛は私の合図に気づき、静かに能力を発動させる。


凛(どうしたの?紅葉姉さん?)

紅葉(2人、変な視線を送ってきた人いたじゃない?)

私がそう言うと、凛は2人がいる方向へ視線をチラッと向けて。

凛(あの人たち?)

紅葉(えぇ、そうよ。一葉に伝えたいから、一葉に繋げてくれないかしら?)

凛(わかった!【脳内電波テレパシー】)


凛の能力、脳内電波テレパシー、これは凛が半径数km圏内の指定した相手の脳内に語りかけられるだけでなく、本人以外にもそのまま繋げる事ができる能力で、簡単に言うと、グループ通話の脳内バージョンだ。

一葉(凛?なんだい?)

紅葉(一葉、聞こえる?)

一葉(え?紅葉姉さん?うん、聞こえてるよ。)

紅葉(良かったわ、あなたの能力で私の記憶を見て欲しいの。不審な2人組がいたからその人達を特定してちょうだい。)


一葉の能力、記憶共有メモリアルシェアで私の記憶を覗いてもらう。

一葉(了解…見えたよ。この2人は副長官の息がかかってる2人だね、そのまま脳内に情報を送るよ。瑠衣姉さんが持ってる資料にも書いてあるから、安心して。)

紅葉(了解、ありがとう。)

一葉(うん、頑張ってね。)


セグ「こちらです。」


脳内で会話をしていると、目的の場所に着いたようだ。

そこは、大きな机にいくつもの椅子が並べられていて、ドアには会議室と書いてあった。


入ると、まだ誰も来ていないようで、そこは無人だった。


セグ「皆様、そちらへお座り下さい。」

そう促され、瑠衣は用意された椅子に座り、それぞれ、瑠衣に続いて、私、愛凛、凛、怜の順番で座っていく。

瑠衣「話し合いをする者は?」

セグ「もうそろそろ参りますので、もう少しだけお待ちください。」

そう言っている間に、1人の男が例の2人を連れて入ってきた。

副長官「お待たせして申し訳ないね。」

その男は言葉とは裏腹に、どこまでも不遜な態度で、私たちを見下しているような目で見てくる。

後ろの2人も同じようなものだ。


瑠衣「いえ、別に、それより僕達のボスがここにいないのは何故ですか?」

副長官「そう慌てることはない。おい、入ってこい。」

そういうと、ドアが開き、美桜と手錠をしている凛怜が姿を現した。

凛怜は私達の姿を確認すると、自分は大丈夫だと言わんばかりの笑みで私達を見ている。

凛と怜は声を掛けようとしたが、この場ではそれが許されない事を理解して、そのまま押し黙る。

正直、私も飛び出したい気持ちでいっぱいだけど、耐えている。

それは瑠衣と愛凛も同様だろう。

だけど、一応無事だったようなので、安堵する。


美桜「ドン・クローバをお連れ致しました。副長官殿、私もこの場に参加してもよろしいですか?」

副長官「うむ、許可する。」

美桜「ありがとうございます。」


セグ「…それでは全員が揃った所で始めさせて頂きます。

特別監査人として、ここの判断を致します、セグレット=ニコールと申します。顔見知りも何人かいらっしゃいますが、どうぞよろしくお願い致します。」


瑠衣「待って、あなたは副長官殿ですよね?ここの長官殿はどこにいるのでしょうか?」

もっともなことを口にする瑠衣。

副長官「今日は長官殿が忙しくてね、私が代わりに出ているのだよ、お許し願いたい。」

それに対して、悪気も出さず、そう平然と答える男に不快感が増す。

瑠衣「…そうですか、まぁいいでしょう。すみません、話を進めてください。」


セグ「かしこまりました。では、話し合いを始めます。」


こうして、私達の凛怜を救うための話し合いが始まったのだった…。




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