第8話 醜い思惑



美桜side


私は凛怜の命令で、能力を使用し、副長官の後をつけている。

先程、凛怜と話したからなのか不機嫌ながらも、我が物顔で、廊下を歩いている様子を見て、嫌悪しか感じられなかった。

これは、周りの職員や看守も同じなようで、みんな同じように嫌なものを見る目で見ている。


実際のところ、評判は最悪なのだが、ここまで残るという事はそれほど、太いパイプを色んなところに持っているというのも理由の一つだろう。

MIOも一枚岩では無い、それは潜入した、私が1番分かっているし、現状この人を捕らえることは出来ない、まぁ凛怜がなんの考え無しで大人しくしてる訳じゃないから、それも時間の問題だろうけど。


副長官は、部下2人を連れ、副長官室へ入る、私も慎重に、部下2人に合わせて、部屋の中に入る。


そして副長官は自分の席に座り、部下の1人が扉を閉めると、副長官の近くにいた部下が話し始める。


「ドン・クローバにあんなこと言ってよろしいので?」

副長官「ん?何がだ?」

「ドン・クローバを実際に処刑する訳では無いんですよね?」

副長官「あぁ、その事か。」


え?処刑する訳では無い?どういうことなの?

頭の中は疑問でいっぱいだった。

その疑問も、すぐに解決する。


副長官「処刑は建前で、ドン・クローバをMIOの生物兵器にする、つまり人としての死だ。まぁあやつは異常種だから、もう人ではないがな。」


こいつ、今すぐにでも殺してやりたい。

私のボスを生物兵器ですって?何をふざけているの?そんなこと私達が許すわけないじゃない。


思わず殺気が漏れそうになるが、それを抑え、このゲス共の話に耳を傾ける。


「しかし、大丈夫なのですか?」

副長官「なにか不満があるのか?」

「いえ、そう簡単にドン・クローバは従うのかと思いまして。」

副長官「あぁ、対策はしてある、この薬だ。」


そう言って副長官は懐から1つの小瓶を出す。

「それは…?」

副長官「ふふふ、これはだな、精神系の異常種が作り出した薬でな、これを飲ませることで、確実にドン・クローバを洗脳状態に出来るのだ。そして、洗脳状態のドン・クローバを使い、自分のファミリーを襲わせれば、脅威も一斉清掃出来る。すばらしいだろう?」


計画の全貌を聞いている私の頭は憎悪でいっぱいだ。凛怜は何よりファミリーを愛してる。

それを、洗脳状態にした挙句、自らの手で壊させる?なんて卑劣な事を考えるんだ、こいつは!


「なるほど。しかし、こんなものどこで…?」

副長官「あるツテがあってね。」

「さすが、副長官殿ですね。」

副長官「ふふふ、そうおだてるな。ドン・クローバを奴隷にした時は、貴様らにもおこぼれを恵んでやる。」


そういうと、ゲスな笑みを浮かべながら、部下の1人はこれまた、ゲスな事を言い始めた。

「やった、俺実は、結構タイプだったんですよね。そういうこともしていいってことで良いんですよね?」

副長官「まぁいいだろう、壊さない程度なら許可してやる。」

「ありがとうございます!」


私は溢れ出る怒りを抑えながらも、必ず地獄に叩き落としてやると決意した。


「副長官殿、私達はそろそろ…。」

部下の1人がそういうと、あの男は思い出したかのように。

副長官「あぁ、そうだったな、せいぜい励めよ。」

「「」」ハッ

ちっ、もう少し聞きたかったけれど、私も出よう。

私は、細心の注意を払い、部屋を出てそのまま凛怜の元へ歩き出した。

この事実を伝えるために、姉さんがこれを聞いたら、どう思うかな?


あなた達が相手をするのがどれだけ脅威なのか、その身で味合わせてあげる、あなたは龍の逆鱗以上のものに触れてしまったのだから…。



凛怜side


凛怜「美桜、おけえり。」

美桜「…えぇ。」


見る限り外傷はない、バレてはいないだろう。

美桜がこの手の事で失敗するとは思っていないが、表情からして何かあったのだとひと目でわかった。


凛怜「何かあったか?」

美桜「…凛怜は私達の敵にはならないよね?」

そう不安そうな顔で見る美桜に、俺ははっきりと告げた。

凛怜「何があったか分からないが、絶対にならないぞ。むしろ、ありえないだろ?俺はシスコンだからな。」

美桜「…ふふ、それ自分で言うの?」

お、笑ってくれた。

凛怜「そりゃな。」

美桜「正直キモいよ?」

凛怜「え!?つらい…。」

美桜「もう、本当にしょうがないな、そんなんじゃ、私達恋人も作れないよ?」

凛怜「…え?そういう相手いるの?そいつ殺そう。」

美桜「えぇ…。いやいないけど。これからできるのかもしれないじゃない?」

凛怜「絶対に!妹達はやらん!」


妹達に恋人?やべえ本当にそいつ殺したくなるな…。


美桜「こら、顔が怖くなってる。」

凛怜「あ、すまん、しかしだな…。」

美桜「本当にしょうがないシスコンさんだなぁ、凛怜は、私達がいないとダメなんだから。」

凛怜「シスコン…だからな。」ドヤ

美桜「…ドヤ顔することじゃないんだけどね?」


しょうがないじゃん、これは誇るべきことなんだからな。

おっと、話がズレてしまった、軌道を戻すか。


凛怜「…それで、どうしたんだ?」

美桜「…計画の全貌を聞いたわ。」

凛怜「お、さすがだな。」


美桜「それが…。」


俺は全てを黙って聞いた。

驚きもあったが、納得できる部分もある。

ただ、1番許せねえ部分があった。


凛怜「俺のファミリーを潰す…だと?」ゴゴゴ


どうやら、よほど死にてえようだ。

今すぐにでも殺しに行くか、俺のものに手を出したんだ、十分に苦しめt。


美桜「凛怜、それを抑えて。」

そう言って、俺を抱きしめた、俺はハッとなり、美桜の顔を見る。


凛怜「す、すまん。」

美桜「あなたの殺気は私でも心臓に悪いのよ。」

凛怜「うっ、ほんとにすまん…。」

美桜「いいわよ、許す代わりにしばらくこのままでいい?」

凛怜「あ、あぁ。」


先程より強く抱きしめられる、大切なものを包み込むように、絶対離さないというように。


美桜は小さい頃、両親に虐待され、売られた先の研究施設で人体実験のモルモットとして、ずっと過ごしていた。

その中には人並みに仲良くなった人もいたが、実験の過酷さに耐えきれず、皆、死んでいった。

その経緯からか、誰よりも大切な者の死を嫌う。

俺は美桜にとって抱きしめる行為は一種の生存確認なのではないかと、考えている。

心臓の鼓動を聞き、体温をその身に感じる。

まぁ、これは俺と2人きりの時にしかやらない行為なんだがな。


俺は、毎回こうなった美桜を強く抱き締め、そして頭を撫でながら。


凛怜「俺は生きてる、お前を捨てることもいなくなることもしない。」

美桜「…うん。」


こう言うことしか出来ない、俺もまだまだだなと、痛感させられる。


今はとりあえず、あいつらに任せるしかねえか。


頼むぞ、愛すべきファミリーの皆…。





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