第6話 蝙蝠からのメッセージ



瑠依side


凛怜が連れていかれて、2週間が経った。

僕は、情報の整理を、凛怜の執務室でやっている。

2週間使われていない、凛怜の机を横目にため息を思わず吐いてしまう。

皆、今まで通りに過ごす事に努力しているようだけど、表面上でしかない事はすぐに分かる。

もちろん、僕も…。

凛怜が消えるかもしれない、その事実が僕達にとって、どれほど毒になっているか、実感する。

いっその事、無理矢理にでも奪い返してしまおうかと考えたが、その考えは一瞬にして頭から消した。


確実に僕達の力を行使すれば、凛怜を奪い返せる。

それほどの力が僕達にはある。

でも、そうなると凛怜が維持していた物が全て破綻する事を意味する。

凛怜は、よく僕達に力を持つ者の責任を説明してくれた。

それがこの裏社会全体を保護するひとつの柱になっている事も理解しているし、それが崩れたとしたらどうなるかも分かる。

それを危惧してる凛怜にとって、それは無視出来ないものになる。


凛怜の望むままにする事も僕達の存在意義の1つ。

だからこそ、出来ない事もある。

何も言わずに素直について行ったのも、きっとそのバランスを崩したくなかったからだろうしね。


ただ、そんな事態になるって、凛怜本人も予想は出来なかったんじゃないかな?

そんなことを考えていると、久しぶりと言うべき人から電話がかかってきた。


瑠依「やぁ美桜、元気だったかい?」

美桜『ええ、元気よ。姉さんは?』

瑠依「元気とは言い難いね…。凛怜のこと聞いてるよね?」

美桜『聞いているというか、会ってるよ。』

瑠依「え?どういう事?」

何を言っているの?


美桜『凛怜と毎日会ってるよ?』

瑠依「な、なんで!?今どこにいるかしってるでしょ?」

美桜『今そのMIOに潜入してるのよ。』

瑠依「えぇぇぇぇぇぇ!?」

美桜『ちょ、うるさい。』

瑠依「うるさいじゃないよ!?一体どういうことだい!?」

美桜『あれ、凛怜は言ってないの?』

瑠依「うん、聞いてないね。」

美桜『多分、忘れてるね。』

思わず、頭を抱えてしまった。

瑠依「はぁ、本当にあの人は…。」

美桜『まぁ、冗談よ?極秘任務だからよ。』

瑠依「そうだったんだ。」

美桜『そうそう、だから言わなかったんだと思うわ…多分。』

瑠依「最後が少し気になるけど、まぁいいや。それで、凛怜はなんて?」

美桜『さすが、姉さん。凛怜の事、わかってるわね?』

瑠依「まぁね、何年一緒にいると思ってるの?」

美桜『ふふ、そうね。凛怜の机の中は見ないでくれだって。』

瑠依「はいはい、分かったよ、見ろって事ね。」

美桜『見ちゃダメよ?決して…ね?』

瑠依「露骨すぎると思うよ?」

美桜『ふふ、そうね。確かに伝えたよ?』

瑠依「そうだね、ありがとう。」

美桜『いいのよ、あ、姉さん。』

瑠依「ん?」

美桜『私も凛怜への想いは負けてないわよ?』

瑠依「…僕の方が強いよ」

美桜『今そばにいるのは誰だろう?』

瑠依「なっ!?」

美桜『そういうこと、それじゃね🎶』

瑠依「ちょ、待ちなさい!」


切れてしまった…。

美桜がいるから、まだ安心できるけど、なんだか別の意味で安心出来ない…。


まぁ美桜がいるなら、大丈夫だろうし、今はいいか。

僕がすべき事は、机の中を確認することだね。


そして、目の前にある、凛怜の机に手を伸ばした。


机の裏に押せるところがあり、押してみると、普段開かない引き出しが開き、中を見てみると、そこにはUSBメモリーとメモが入っていた。


早速メモを見てみることに。


『このメモを見ているということは何かが起こったという事だろうなという文を1回書いてみたかったんだ、なんか面白味あるだろ?』


何言ってるの凛怜?馬鹿なの?


『今馬鹿にしただろ?泣くぞ?』


いや、なんで分かるの?怖いんだけど…。


『話を戻すぞ、これは俺の身に何かあった時の為に残しておく。このUSBメモリーの中にはある情報をまとめている、これを上手く使ってくれ。そして、これをもし偶然見つけた人が悪用しないように、念の為にだが、ファミリーの幹部しか使えないように、パスワードを設定しておいた。それじゃ、あとは任せた。がんば♡』


なんだろう、最後はむかつくけど、情報って、なんの情報なんだろう…。


早速、USBメモリーをPCに接続し、ファイルを開いてみた。

パスワードを入力してくださいという文字と暗号らしきものが表示されていた。


【孤独な蝙蝠が齢4にして7人の家族を見つけたり。

1人目は気高き鬼、2人目は寂しがり屋の狼、3人目は凛とした狐、4人目は気まぐれな猫、5人目はこわがりな麒麟、6人目は元気な精霊、7人目は優しい妖精。】



僕はすぐに内線で幹部を集めた。




数分後


幹部の全員が執務室に揃った。


紅葉「急に皆を集めてどうしたの?」

愛凛「何か分かったのか?」

怜「…なに?」

一葉「その表情、なにか進展があったんだね?」

凛「…。」


説明しようとしたけど、何だか凛と怜の様子がおかしい。

瑠依「凛?怜?どうしたの?」


そう聞いた瞬間、凛が泣き出した。


愛凛「ど、どうしたんだ?!」

凛「り゛ら゛にぃ゛が!り゛ら゛にぃ゛が!」

紅葉「凛怜に何かあったの?」


凛は泣いていて、話が出来る状態じゃなかった。

それを見兼ねたのか、怜が口を開いた。


怜「…兄さんの処刑が1週間後に決行される。」

愛凛「な!?」

紅葉「それは本当なの?!」

怜「」コクッ

愛凛「なら、早く助けに行かねば!こんな所で手をこまねいてる暇は無いぞ!」


皆、凶報とも呼べる事実に焦りが見え始め、MIOに殴り込みに行くつもりだろう。


だけど、少し待って欲しい。


瑠依「待って、少しでいいから時間をちょうだい。」

紅葉「…何?」

僕はメモを紅葉姉さんに渡した。


瑠依「凛怜の机からこのメモとUSBメモリーが隠されていたんだ。」

紅葉「これは…。」

紅葉姉さんがメモを時折僕と同じツッコミをしながらも、全部読み終えたのか、視線を僕に向けた。


愛凛「何が書いてあったんだ?」

愛凛も紅葉姉さんから受け取り、読み始めた。

ツッコミ内容も同じで、愛凛はふざけているのかと怒ってはいたが、ああいう性格だと分かっているから、それ以上何も言わずに目を通していた。


そして、読み終わると。

愛凛「…このパソコンに映っているものか?」


と、パソコンの方へ視線を向け、僕に聞いた。


瑠依「そうだよ。」


一葉「私にも見せてくれないかい?」

今度は一葉がメモを見た。

一葉は相変わらずだねと少し笑いながら、目を通していた。

一葉「なるほどね、それでこの画面と…。」


紅葉「この暗号…。たしかに、私達以外というか私達が全員揃ってないと、分からないわね。

それに、気高き鬼って凛怜は私をそんなふうに思ってたのね。」

凛怜からの思わぬ評価に紅葉姉さんの顔が柔らかくなる。


愛凛「凛とした狐か、なかなか嬉しいな。」

裏では、とんでもない変態だけどね?

これを知る日が来るのだろうかとヒヤヒヤしてるよ?


一葉「…こわがりとは心外だな、慎重といってほしいものだね。」

少し心当たりがあるのか、強くは批判出来ないようだ。



瑠依「ほら、凛、怜、この画面を見てご覧?」

凛「この元気な精霊って、私の事?」

怜「…優しい妖精。」

瑠依「うん、そうだと思うよ。」

僕がそう答えると、凛は泣き顔では無くなった、心無しか怜の表情も明るくなったように見える。


僕は寂しがり屋の狼か、心外と言いたい所だけど、当たってるんだよね、何も言えないんだ。

ていうか、その寂しがり屋の狼を放置するってどういう事なんだろう。

これはたっぷりお話しないとね。


紅葉「さて、齢4って書いてある時点で、年齢に関する数字を打てばいいのだけれど、まぁこれは順番に打っていきましょう。」


紅葉姉さんの言う通りに、僕達は孤独な蝙蝠に初めて会った年齢を打っていく。

ちなみに、美桜の分は僕が代わりに打っておいた。

怜「打ち終わった。」


怜がうち終わると、私がEnterキーを押すと、開いた。

瑠依「こ、これは!?」

紅葉「…なるほどね。」

愛凛「こんなものを隠していたのか!?」

一葉「これは最強の一手だね。」

凛「これで助けられるかな?」

怜「…いける。」


中に入っていた情報は僕たちの想像を絶するものだった。これで助けにいける。


待ってて、凛怜、今助けにいくよ!




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