第5話 傲慢な小心者
セグレットside
凛怜さんの処刑が決定されてすぐ、私は副長官の元へ抗議しに行った。
セグ「ドン・クローバを処刑するなんて、何を考えているのですか!?」
副長官「ワシの決定に異論があるのかね?」
セグ「私達は公平でなければならないはずです。それに、クローバファミリーは抑止力にもなっていた。クローバファミリーという抑止力が1番の脅威になって、私達に牙をむくことになるんですよ?!」
クローバファミリーの規模としては中堅くらいでも、実力はトップに位置する。最強のファミリーというのは決して名ばかりではない。
やろうと思えば、MIOなど圧倒的な力でねじ伏せられるだろう。
それでも、MIOはクローバファミリーと一種の相互監視の関係になっているのは、裏社会の秩序を大幅に乱さない為である。
私達は警察ではない。
警察に近いものではあるが、あくまで、表社会に害を及ぼす者やマフィアの掟を守らなかった者を裁く為にある組織だ。
逆に言えば、表社会に迷惑をかけなければ、殺しを容認しているという事になる。
しかし、それらを取り締まるには力が必要だ。
それに一役買っているのが、クローバファミリーなのである。
MIOが、1番力があると言われているクローバファミリーと相互監視、つまり対等な関係でいられるほど強い組織と周りに認知されていれば、ほかのファミリーも下手なことは出来ないからだ。
しかし今回の件で、完全にクローバファミリーとの関係が悪化してしまえば、MIOの組織自体の存続が危ぶまれる。
しかも、ドン・クローバである凛怜さんを処刑してしまえば、それが引き金となり、クローバファミリーの力は衰え、各国の過激派のマフィア達が、暴走する可能性さえあるのだ。
これなら、まだ可愛いものなのかもしれない。
一番の問題点はクローバファミリーの幹部達だろう。あれは明らかに凛怜さんに執着している。
もし凛怜さんの死が原因で力が暴走したとしたら?
止められる者はいない、そこはもはや地獄だろう。
セグ「お考え直し下さい、副長官殿。」
私は必死に嘆願した。
副長官「…まぁ良いじゃろう。時にセグレットよ、貴様はワシを見てどう思う?」
セグ「…どうとは?」
私にそう質問する副長官に少し嫌なものを感じつつ、質問の意図が分からないので、そう返す。
副長官「ワシは、もう歳だ。それなのにも関わらず、長官の座に付けていない、副長官のままだ。おかしいと思わないか?この組織に誰よりも貢献しているのはワシなのだ。クローバファミリーが抑止力?違うな、この組織こそが抑止力なのだ。
あんな雑魚共なんぞ、気にしてたらMIOとしての面子に関わる。それこそ公平性が失われてしまうわい。
それに若造を長官に据えて、ワシを蔑ろにする方が余程罪深い。
この組織の長官には1番貢献している、ワシこそが相応しい。そうは思わんかね?」
長々と語ったこの人の口から出た言葉は、まるで今の現状を分かっていなかった。
この組織にいて、何を見てきたのか、誰に協力してもらってきたというんだ。
副長官「まぁ、いずれ分かる。ワシが誰よりも相応しいという事にな。」
セグ「…考えを変えるつもりはないんですね?」
副長官「何を変える必要がある?これは決定事項だ。」
セグ「長官は反対されているでしょう?」
副長官「そんなもの知るか、ワシこそが絶対だ。もう話をしても無駄だ、ササッと出るがいい。」
セグ「…そうですね、失礼しました。」
もう無駄だと思い、副長官室から出た私は、静かな怒りを抱えながらも、冷静にこれからやる事を考えた。
とりあえず、凛怜さんにこの事実を伝えなければならない。
そう思い、私は凛怜さんがいる、独房へと足を進めたのだった。
10分後
凛怜がいる独房
凛怜さんがいる独房に着き、中の様子を見ると、凛怜さんは考え事をしているのか、何も言葉を発せず、ただ黙ってベッドの上に座っている。
しばらくして、私の存在に気付いたのか、最初から気付いていたのか、分からないが私に声をかけてきた。
凛怜「…どうした?セグレット?」
そう言って静かに笑う凛怜さんに、私は残酷な事を告げるのだと、尻込みしてしまいそうになるが、伝えなければならないと自分を鼓舞するように、言葉を紡ぐ。
セグ「あなたの処刑が決定しました。」
凛怜「そうか。」
セグ「随分と落ち着いていますね?知っていましたか?」
凛怜「まぁ、お前らが噂しているのを聞いてな。」
セグ「そうですか…。」
もっと取り乱すものだと考えていた私はとても拍子抜けの気分だ。
凛怜「なぁ、セグレット。」
セグ「なんですか?」
凛怜「お前は、俺の処刑に反対なのか?」
セグ「…答えづらい事を聞いてきますね。」
いつものひょうきんとしたものよりどこか憂いを帯びた雰囲気に、心が痛む。
凛怜「どうなんだ?」
セグ「…この決定は公平とは程遠いです、だから私は反対です。」
凛怜「…そうか、ありがとうな。」
セグ「…そんな顔でありがとうと言われても嬉しくありません、あなたにそんな顔は似合いませんよ、もっと馬鹿っぽく笑ってた方がお似合いです。」
凛怜「え?バカにされてる?」
セグ「いいえ、そんなことはありませんよ。」
凛怜「じゃあなんで俺ディスられてんの?」
セグ「気のせいではないでしょうか?」ニコッ
凛怜「うるせえ!このイケメンが!顔面偏差値高すぎんだよボケ!」
セグ「なんですか、褒めてます?」クスッ
凛怜「…お前の方がその表情、似合ってんぞ。」
セグ「え?」
凛怜「お前みたいなイケメンは辛気臭い顔より今みたいに笑った方がずっといいんだよ。俺の心配より自分の事に目を向けてみろこのイケメンめ。」
…本当にあなたって人は。
セグ「そういう所ですよ」(ボソッ)
凛怜「ん?なんか言ったか?」
セグ「いえ、自分の心配をするのはあなたですって言ったんです。イケメンイケメンうるさいです、そんなに恨み辛みがあるんですか?」
凛怜「単純に羨ましいだけだ。」
セグ「」(哀れみの目)
凛怜「おいそんな目で見るな!惨めになっちゃうだろうが!」
セグ「はぁ、なんだか馬鹿らしくなってきました。」
凛怜「なんだよ、なんか酷いな。」
セグ「酷いのはあなたです。せっかく…いえ、なんでもありません。」
凛怜「え?何?せっかく?何?デレ来ちゃう?デレ期?ついに?」ニヤニヤ
セグ「うざいです。」
凛怜「酷い…。」
セグ「あとひとつ伝えておきます、あなたのファミリーが動いています。」
凛怜「…それで?」
セグ「私からは上から告げませんが、最悪の場合を覚悟するかもしれません。」
凛怜「…そうか。まぁそうなることは無いぞ?」
セグ「何故ですか?」
凛怜「んなの、勘だよ。」
セグ「…いい加減ですね。」
凛怜「今更だろ?」
セグ「そうでしたね、あなたはいつまでも変わらないお人だ。」
凛怜「そんな簡単に変わってたまるかよ。」
セグ「正直変わるべきかと。」
凛怜「なんで!?」
セグ「適当すぎる所はやめた方がいいと思います、それでは。」
凛怜「え?ちょ、言い逃げ?おい待てコラァァァァ。」
私は凛怜さんの言葉を無視しつつ、独房のある場所を後にした。
まぁ、そんな所も私は案外悪くないと思ってはいますけどね。と、あの人に聞こえないように、そう言いつつ、少し軽くなった足で自分の執務室に戻るのだった…。
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