第19話 アンパンはこんなにも甘いのに、どこか失恋のような味がする(恋愛経験ゼロ)3
…………………………………………え?
数秒の空白を経て、出遅れた理解がようやっと追いついてくる。
あまりに突然すぎて放心しちゃったけど、なんで今俺ぶたれたの? 大慌てでパン食って雪菜からのランチの誘いを間接的に断ったから? たったそれだけで人を殴る事案が発生する国だったっけ? ジャパンは。
思い当たる節がなさすぎてついふざけた推測をしてしまったが、雪菜はその程度のことで人を殴ったりしない。まぁ、世のほとんどの人がそうだと思うが。
だがしかし、そう断言してしまうと雪菜は意味もなく俺を殴ったことになってしまうわけで……おかしいかな、まともだと主張することで
……うん、やっぱ本人に訊くのが一番――。
「えいッ」
「痛ッ⁉」
「えいッ」
「ちょッ⁉」
「えいッ!」
「あん♡」
「えいえいえいッ!」
雪菜の往復ビンタが俺を襲う。こうかはばつぐんのようだ。
「えーいッ!」
「――やめーい!」
ビンタの回数が片手じゃ収まらなくなったところで、俺は雪菜の手を掴み食い止めた。
「……え、なんで? なんで叩いてきたん?」
「いや、これで目が覚めるかなと思って……どう? 目、覚めた?」
悪びれる様子なく、むしろ心配するような顔して首を傾げる雪菜。
目が覚める? 目覚めるの間違いじゃなくて? 事実、ちょっと目覚めそうになっちゃったし。
つか一方的に叩いておいてよくそんな顔できるな。なんか暴力振るった後に『ごめんな。これでも俺、お前のことが好きなんだよ』って泣きながら妻に許しを請うDV男みたいで怖いんだけど。
「あ、こりゃおかしなまんまくさいな」
黙っている俺を見てなにをどう思ったのか、雪菜は肩の力を抜いて当てが外れたように零した。
なにを期待していたのか知らず、なにが原因で失望されたのかもわからない。ただ、された側としては気持ちの良いもんじゃない。
「人をあれだけ引っ叩いておいた挙句、おかしなヤツ扱いはさすがになくねーか?」
「ううん、その逆だよ。今日の一成はかなりおかしいから平手打ちをお見舞いしたの。アナログテレビを叩いて直すの要領でね」
「おいなんだそれ? 俺の頭が放送終了つまりは終わってるって意味か?」
「あ、ツッコむとこそこなんだ」
「いいやまだある……今日の俺がおかしいってなんだ?」
「…………へぇ、そうかそうか…………自覚はないんだ」
雪菜は俺に掴まれていない方の手を顎に添え、ブツブツと呟いて頭の中を整理しているよう。
おいおいこの状況で自分の世界入っちゃったよこの人…………手、放していいかな? なんか急激に恥ずかしくなってきたから手、放していいかな?
「――てかてか! こないだの話、結局どなったん?」
「こないだって?」
「とぼけんなって~、他クラスの男子に呼び出されてたじゃんか~こないだ~。どうせまた告白だったんしょ? その結果を聞いてるんよぉ~」
「あぁ、あれね」
「受けたん? 振ったん? どっちなん?」
「それは――――」
「ん? どったの〝千夏〟??」
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